寒気
「じゃあ、それも踏まえてお仕置きするから」
「……」
泥島の言葉に、タツキたちは沈黙する。
同郷人とわかって、泥島に少しばかり親近感がわいたゴウではあるが、しかし泥島の方は同郷人であることを特に気にもせず、いや、同郷人だからこそ厳しく当たるのかもとゴウは思った。
月に雲がかかる。
月明かりが遮られた。
闇が広がり、その濃さを増して、道の真ん中に佇む泥島を包み込んだ。
タツキが、ゴウから目線を外し、闇を見ると、ゴウもつられた様に、闇に目を向けた。
隆起した地面の先、泥島は闇の中。
そして、その闇の中から、ゴウを見ている。
暗くて、ゴウからは泥島の視線の先がどこを向いているのか、見えはしないが、自分がじっと見られているという確信が、ゴウにはある。
雲の切れ間から月明かりが漏れ、泥島を照らす。
ゴウは、自分の背中がじっとりと汗ばんでいるのをかんじながら、泥島をじっくりと見てみる。
顔は見えないが、目が合った感覚があって、背筋がぞくりと冷えた。
瞬間、ゴウは、後ろに跳んだ。
反射的に、タツキも追随して跳び退く。
ゴウがいた場所の一歩前には、いつの間にか泥島がいて、だらりと降ろした腕を動かさず、俯いて、地面の隆起を見ている。
そして足で隆起を踏み、土をならして、俯いたまま少し首を傾けてゴウを見た。
「何にせよ人殺しは見過ごせないよ」
泥島の目は妖しく光り、秘めた怒りがゴウを刺す。
ゴウは、泥島を怒らせるのは悪手だとかんじたが、だからといってどうにも出来ない。
ただ、小刻みに首を横に振るだけだ。
───泥島は強い。
何故だか、それだけはわかる。
汗が止めどなく流れて、いつの間にか背中のみならず、全身から吹き出していた。
ゴウは、体を冷やすという、汗の効果を思い出す。
「体温だけじゃなくて、まるで闘志まで奪われてくみたいだ」
蒸し暑くて夜風はぬるいのに、ゴウは寒ささえかんじている。
泥島は態度を多少軟化させても、攻撃をやめてはくれないのだろうな、とゴウは思ったのだ。




