立ちはだかる泥島
泥の体から、闘気のオーラが漏れ出した。
「大体、おばあちゃん切り刻む様な奴の仲間って、ろくな奴じゃないでしょ絶対。殴りてえ……」
泥島の暗い敵意に呼応して、闘気は黒く禍々しく尖り、瘴気へと変わる。
そして、黒い瘴気が闇に溶けてゆく。
その様子を睨むタツキの目に宿る闘志の火が燃え盛る。
それはもはや炎だ。
視線を交わし合い、同時に頷くタツキとゴウ。
一瞬のアイコンタクト。
ゴウがハンマーを振るい、地を叩いた。
「食らえ濁竜波っ!」
地面が割れ、吹き出した土砂が、泥島を襲う。
その形はまるで竜だ。
土属性の技だが、土属性の相手、特にゴーレムに効果大。
ゴーレムを飲み込み、濁竜に溶かして土に帰してしまう大技だ。
「おばあちゃんも巻き込む気かよ。ふざけんなよ」
泥島の静かな声には、怒気が漲っている。
タツキとゴウには、キーネが見えていなかったのだが、泥島からすると、無差別攻撃に思えたのだ。
「魔法教示」
泥島の視界に、魔法陣型のカーソルが浮かび上がり、濁竜を捉えると、対処法が表示される。
「呑」
泥島は目を見開き、大きく息を吸い込む。
すると、濁竜がみるみるその口に吸い込まれていく。
表示された対処法は、シンプルな技。
土を呑み込み、体内に溜め込むだけのものだが、ゴウの気持ちを折るには一番いいだろう、と、泥島は思ったのだった。
ゴウは顔面蒼白、愕然とした表情で、濁竜を呑む泥島を見ている。
「でもよ、これならどうだっ!」
一見持ち直した様な、しかしやや上ずったゴウの声と共に、濁竜が途中で切れた。
泥島が濁竜を吸い込み終わると、そこには、居合いの構えのタツキがいた。
「首、もらうよ」
タツキが超速の剣を繰り出す。
しかし泥島は、顔色一つ変えず呟く。
「どこにいるか、何をやるか、丸わかりなんだよ」
魔法教示の効果で、魔力を持つ者の動きは、泥島に筒抜けだ。
サーモグラフの様に表示されたタツキの輪郭に、魔法陣のカーソルが捉え追尾していたのだから。
タツキを右拳で殴り飛ばす泥島。
表示された名前を、ゆっくりと読み上げる。
「フ・ク・シ・マ・タ・ツ・キ。日本人じゃん。もう一人は……いない?」
先程までゴウがいた場所には、誰もいない。
しかし、魔法教示が、ゴウの所在を泥島に知らせる。
泥島の目が、ぎょろりと動き、下方を見た。
ゴウは地中を進み、一撃加えんと、地面を飛び出す。
「だから、丸わかりなんだって」
泥島は、左拳を降り下ろす。
タツキの背中に、悪寒がはしった。
「ゴウ気を付けろ!」
タツキの注意喚起の叫びが闇夜に響く。
「うおおおおおお!」
地を破って飛び出して来たゴウ。
下から上へ向けて、思い切り振り上げたハンマーが、泥島の拳と激突した。
「やるじゃん、ユキシマゴウ」
泥島の拳にヒビが入り、崩壊した。




