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怖れる穴倉
背筋に怖気がはしる。
穴倉は、歯を剥き出しにして、少年を睨み付ける。
敵意と殺意、そして恐怖が穴倉の心を支配する。
それは、自分をかつて軽々と八つ裂きにした、あのゴブリンの騎士に抱いた怖れよりも、遥かに大きい。
「何者だ!!」
つい強くなった語気に、穴倉は自分で驚いた。
そしてそれが、自嘲の感情となって、穴倉を束の間微笑ませ、心を落ち着かせた。
「ここは、お前の世界か」
「そうだね」
銀髪の少年は顎を上げ、笑みを浮かべながら答えた。
風が吹く。
穴倉はしばし沈黙し、考えを巡らせる。
やってくれたね、と銀髪の少年は言った。
十中八九、カプリスたちの捕食と、この神殿の破壊についてだろう。
そこに怒気も混じっていた様な雰囲気だった。
ということは、何かしらの被害を、この少年に与えたということだ。
「カプリスとじいさんは、喰わせてもらったよ」
銀髪の少年の顔が、険しくなる。
穴倉は意識して、悪戯っぽい声をあげたつもりだが、声が震えていることを、自ら実感した。




