偽りの名に思う
「王子は、師匠をどう思われましたか?師匠はカプリスと呼ばれていた。己はもう師匠を信用出来ない」
ガインは苦々しげに吐き捨てる。
ロイドはその気持ちをおもんばかる素振りも見せず、冷静な表情だ。
「そうであったな。ルレット・ジョルカル・ランダルムの名が、偽りのものだということだ。あれは神を冒涜している」
故に、気など遣わず、忌憚のない意見を述べる。
ロイドの言葉を受けて、ガインが暗い表情になるが、それを望んでいたかの様な、納得の色もある。
この世界では、偽名は忌み嫌われる。
果たし合いに敗北した時、倒れた時、葬られ墓標に刻まれるのは、名乗った名だ。
ガインは土を掴み取り、拳に強く握り込む。
そして苦しげに言葉を絞り出した。
「…名を偽るということは、勝負を、命を、最期に立ち合った者を、そして自分の存在全てを、そして生を与えてくれた神を裏切る行為。師匠にはもう、神官の資格などない」
ロイドは、ガインの目に、光るものが溜まるのを見た。
それはかつて、自分を見捨てた父王に抱いた、失望と悲しみの入り雑じった、忸怩たる思いに似たものだろうと直感し、立ち上がって背を向けた。




