フォンテスの変化
シャノンは耳をそば立てる。
上機嫌のフォンテスの朗らかな声が、背後から聞こえてくる。
それはジャン・ジャックの存在が起因していることは、誰の目にも明らかだ。
「俺は嬉しいぞ、ジャン・ジャック。こんなところで、まさか路上出身の男と出会うとは思わねえ」
「俺もだフォンテス。お前は飾らねえ性格で嫌いじゃない」
フォンテスは、ビクトーに誘われ、真祖の吸血鬼として仲間たちと出会った。
皆がフォンテスを崇め、大切にしてくれることには感謝しているし、自分の世界が変わって幸せになったとフォンテスは思う。
だがそれは、吸血鬼の血を崇めているのであって、フォンテス個人を崇めているわけではない、ともフォンテスは考えていて、そこが引っかかっていた。
そんな時、ビクトーに言われた。
王としての自分と、素の自分を統一すればよい、と。
だから振る舞いを変えたし、あえてビクトーに瞳術をかけてもらい、感情も抑制した。
瞳術は解けてはいないはずだ。
だが、今のフォンテスは興奮していて、感情が解放されていた。
ジャン・ジャックは吸血鬼ではない。
そして路上出身という、フォンテスと同じ出自がある。
だからジャン・ジャックは、フォンテスにへりくだる雰囲気もないし、仲間たちとはまた違う、生い立ちという共通項を持った存在として、心にすんなり入って来る。
それは同郷の友といった趣で、本来のフォンテスを呼び覚ます。
肩書きではない、フォンテス個人と向き合うジャン・ジャックには、王としての振る舞いなど必要ない。
それがフォンテスには嬉しかった。
ジャン・ジャックも、似た感情を持っていた。
フォンテスは、位を鼻にかけず、肩書きを脱ぎ捨てて向き合ってくれるのだから。




