ワキガ固め
「食らえカプリス!」
アリスは、頭突きで倒れたカプリスめがけて跳躍し、その鎖骨辺りに左のエルボードロップを落とした。
そしてそのまま首をクラッチし、袈裟固めの体勢でカプリスを絞め上げる。
カプリスは痛みと苦しみで足をばたつかせ、脱出しようともがくが、魔人の腕力は凄まじく、しかもアリスの体重移動は絶妙で、びくともしない。
力と技の融合。
脱出は容易ではない。
カプリスの眼前には、うっすらと汗をかいたアリスの左脇。
スパイシーな香りが漂ってくるが、絞め上げられ、呼吸を阻害されているカプリスは、手足をばたつかせる。
そして、臭いなどお構いなしに必死に息を吸おうともがくが、アリスの万力の様な絞めの前には充分な量の酸素を取り込めず、吐く量多く、吸う量少なくで、限界が近くなる。
カプリスが意識を失いかけたその時、一瞬、アリスの絞めが緩まる。
苦しさが緩和され、カプリスは一気に息を吸う。
アリスの思惑通りに、だ。
カプリスの鼻孔から、口から入る新鮮な空気。
しかしそれは、得も言われぬ、刺々しい獣臭と共に。
「必殺!ワキガ固め!」
「くさーい!」
アリスは、カプリスの絶叫を合図に、再び絞め上げた。
体内にワキガの臭いが充満しているかの様な錯覚に陥ったカプリスは、いまだかつてない程にもがく。
次第にカプリスの動きが鈍り、抵抗がなくなる。
カプリスの左足がぴんと伸び、ブルブルと震えた。
そしてぱたりと足が落ちた。
誰もが微妙に暗い表情で、アリスとカプリスを見下ろす。
するとアリスは、しょんぼりした顔でカプリスを放した。
その胸に去来したものは。
「食らわせてやったわ、俺のワキガ固め。しかし、何故こんなにも空しい。…そうか、俺自身の心が圧倒的に傷つくからだわ。俺もうブレブロに帰りたいわ。ゴードンパパの煮込みが食べたいわ…。何でこんな遠くまで来ちゃったんだろう的な…。瑠璃、ちょっくら俺を抱きしめて慰め…」
アリスは、瑠璃の顔を見た。
鬼の形相の瑠璃はギルバーティを依然として睨んでいる。
「そんな雰囲気じゃないわな。よし行け!マイハニー!」
あずみが険しい表情になる。




