アダムの母
「母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、アダム」
少年が旅立つ。
母親は複雑な思いで息子を見送った。
何ヶ月もの間眠り、意識が戻らなかったアダムが目覚めたのは、いつもの様に息子の世話をしに病院へ行った時だった。
不意にアダムが目覚め、母さん、と言葉を発した時には泣き崩れた。
家に帰る道すがら、母親は不安にかられた。
息子が眠ったら、また目覚めなくなるのではないか。
そう思った。
だから息子に言ってしまった。
「もう寝ないで」
と。
息子は言った。
「もう寝ない」
と。
しかし息子は寝てしまい、無垢な寝顔を見せて、そして朝には問題なく起きた。
これを毎日繰り返した。
病状は快復したと言えた。
息子は毎朝狩りに出掛けては、必ず獲物を仕止めて昼前には帰って来た。
それからは、母と子の穏やかな時間。
夜になるまで、色んなことを話した。
毎日の生活の中で、息子が眠りにつくことに不安がなくなった頃、どこで稼いだのか、息子は大金を持って来て、それを当面の生活費にと言ってきた。
息子は、旅に出ると言った。
その時、母は、何故今まで気付かなかったのだろう、と思った。
息子の姿をしてはいるが、中身がまるで別人ではないか、と思った。




