ずっと一緒にいたいんだ
デシネも昔、結婚していた。学生結婚だった。妻は、勝ち気な女だった。彼女は、優秀な精霊術士であり、生産魔法使いでもあった。付き合う前から、デシネに何かとちょっかいをかけてくる女だった。
ある時彼女に、僧侶なら、貧しい者を救う為に、生産魔法を修得しろ、と面と向かって言われた。それはもう、こっぴどく言われた。神聖魔法よりまず生産魔法だと。全くその通りだと思った。その日からデシネは、彼女に教わりながら、貪る様に生産魔法を学んだ。
ある時、彼女が泣いていた。他の学生にも同じ調子で進言し、疎まれたらしい。それだけならば気にも留めないが、デシネも迷惑している、と女子グループに言われたらしかった。若い頃のデシネは、女性に割かし人気があった。勉強を通して、二人の距離感が近付いていることが気に食わないであろう、女子たちの妬みだった。
デシネは泣く彼女を必死に慰めた。今でこそ喋ることが苦にならなくなったが、昔デシネは無口な方だった。そんなデシネが、必死に喋り倒して、彼女を慰めた。それでも、彼女は聞く耳を持たなかった。迷惑かけてごめんね、でももう終わりだから、と力なく言われた。勝ち気な彼女の力ない顔と言葉が、悲しい顔と言葉が、デシネは何よりも嫌だと思った。気付くと、彼女の顎をしゃくり上げ、彼女の口を自分の口で塞いでいた。自分で自分の行動に、大いに慌てた。謝罪と、訳のわからない弁解を繰り返しに繰り返した挙げ句、デシネは最後に言った。「ずっと一緒にいたいんだ。迷惑なんかじゃない。終わらせない。」と。
彼女は、バカじゃないの、と言ったきり、笑顔で黙り込んだ。女子グループの妬みが、かえって二人の仲を結び付けた。
ほどなくして、二人は付き合うことになった。そして結婚した。幸せだった。他に何もいらないと思った。
仕事も上手く行った。二人で開発した氷の魔法などは、生産魔法として広く普及するまでになった。しかし、彼女は死んでしまった。新たな氷の魔法の実験開発中の事故死だった。氷の生産魔法を氷の精霊魔法に置き換える実験だった。だが、精霊が暴走し、彼女を凍り漬けにした。凍り行く間、彼女は言った。迷惑かけてごめんね、でももう終わりだから、と。デシネは叫んだ。「ずっと一緒にいたいんだ!迷惑なんかじゃない!終わらせない!」と。彼女は、バカじゃないの、と言ったきり、笑顔で凍り付いた。




