諦観と謝意
アランが撃破され、鍔迫り合いが収束し、天使たちがアリスを問題視している頃。
時は、夕刻であった。
地下牢の通路、その暗い空間に、ぼんやりとした灯がひとつ。
全身、革の鎧に革のブーツ。
看守はカンテラを持ち、見回りをしている。
夜間の見回り担当で地下に降りたこの看守は、根が真面目なのだろう、幾度も見回りに来た。
硬い靴底の音が近付いて来て、最奥のビクトーたちの牢の前で数瞬止まり、また遠ざかる。
看守は、囚人ひとりひとりの顔をカンテラの灯で照らし、確認する。
「…というのが、このスキルの使用方法です」
ビクトーはクマガイに、スキルを丁寧に教えていた。
一つ一つ確認したクマガイの目が、次第に自信に満ちたものになっていった。
「しかし、有用なスキルばかりを、こんなに沢山…。クマガイ様は、異世界では大盗賊だったのではありませんか?」
クマガイのスキルは、住居侵入、偵察、収納術、物体発見など、盗賊系スキルが充実していた。
固有スキルと思われるものも多数あり、抱き込むメリットは十分だというのが、ビクトーの見立てだった。
懸念は、内面的に問題があることだ。
「まあ俺は、金でも下着でもすぐ見つける!スカートの中でも女子便所でも覗き放題だし!」
「そ、そうですか…」
淑女を覗くなど、男の風上にも置けぬ卑劣漢。
そうビクトーが心中で罵りながらイゴールを見ると、イゴールも同じ気持ちだったらしく、翻意を目で訴えて来た。
こんな奴と組むのはやめるべきだ、と。
ビクトーも同じ気持ちだ。
しかし、クマガイは探知スキルも豊富に所持しており、協力者にするにはうってつけなのだ。
不愉快そうなイゴールは、一度目を閉じて、一つ大きな鼻息を吹き、再び目を開けた。
そして諦観の表情で頷く。
ビクトーは謝意を心中で叫びながら、しかし、何ごともないかの様に、静かに言い放った。
「では、行動を開始しましょう。」




