雨宿りの出会い
地味な話が続いています。ごめんなさい。
ガインは、民家の軒下で雨宿りをしていた。いつも通りの散歩をしていた折、突然の雨に降られたのだ。今日は鎧は着ていない。子供たちに群がられるのを防ぐ為だった。嫌な訳ではないが、わざわざ目立つ必要もないと思った。テンプラーであるとアピールしている様で、引っかかるものも何となくあった。だから、鎧は着て来なかった。着ているのは、標準的な布の服の上下だ。この平和では鎧を着ている必要もないし、この時、ガインはLV16。生半可な兵では、束になってもかなわない、太刀打ち出来ない強さだった。だから鎧を着なかった。
初老の男がひとり、近付いて来る。
「おや、若いゴブリンさん…かな?うちに何かご用ですかな。」
「すみません。雨宿りをさせてもらってます。」
「おお、言葉がお上手で。しかも大きいですな。まるで人間だ。」
「己は成長期に栄養を採り過ぎまして、この大きさに。」
「ははは、ご冗談を。ただのゴブリンではなく、上位種や変異種なのでしょう?ゴブリン・ロードやグレーターゴブリンの様な。」
「いえ、己はただのゴブリンですよ。育ての親のお陰です。食事と教養を与えてくれて、まるで人の様に育ててくれました。」
男が扉の鍵を開ける。
「そうですか、それは立派な方なのでしょうな。さあ、中へどうぞ。なに、すぐに止みますよ。それまでこのままお話でも。」
「よいのですか?見ず知らずの魔物の己に。」
「少し話しただけでも、あなたの人となりはわかりますからな。」
「己はゴブリンなので、ゴブリンどなりとでも言うべきなのでしょうか、はは。」
「ははは、本当にご冗談が上手い。ささ、どうぞ。」
男に促され、家の中に入るガイン。男は椅子を引き、手で、どうぞ、と着座をすすめた。ガインは少しはにかみながら軽く一礼し、座った。
「ほら、非常に理知的な方だ。隣人足り得る方かどうかなど、誰でもわかることなのですよ。」
「そうでしょうか。己はこの町に来る途中、人に嫌がられたり、敵意を向けられたりしました。魔物なんだと痛感させられた思いがあります。」
ガインは目を伏せる。心の傷は塞がっても、傷痕が残ることというのは、往々にしてあるものだ。ましてや、ガインはまだ年頃の少年である。
「そうでしたか。あなたは人の様な育ちをしたということなので、それはお辛かったでしょうな。しかし、先程から私はあなたを魔物とは思っておりませんよ。あなたは人だ。魔物とは思えない。私には、肌の色が少し違うだけの人にしか思えておりませんよ。」
ガインの目に、熱いものが湧いた。
「…ありがとうございます。この町は俺に、欲しいものを与えてくれる。こんなに嬉しいことはありません。俺はガイン。ゲブ・ガインです。」
「私も同じですよ、ガインさん。この町に、欲しいものをもらっているのです。貧乏精霊術士をしています、デシネと言います。」
デシネが両手を差し出し、ガインの手を固く握る。この男も、己を魔物扱いしない。そう思うガインの晴れやかな気持ちを表すかの様に、日差しが部屋に差し込んできた。雨はもう、止んでいた。




