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街とガイン

ガインは、数日前からジダール家の屋敷で世話になってしまっていた。ユウはなついているし、エイミーと両親もとてもよくしてくれていて、その腕を買いたいということも告げてきた。母のいる故郷の森に帰る道中だということを告げると、母も連れてこの屋敷に住めばよいとさえ彼らは言ってくれて、ガインは興味が湧いてしまっていた。


森は、貧困にあえいでいた時代をしばしば思い起こさせる。母には会いたいが、森自体に思い入れがある訳ではない。森は危険も多いし、楽しいこともない。そしてみじめだ。ゴブリンは基本的に知能が低く短絡的で、同じゴブリンでも村が違えば敵として見なして戦うし、盗んだものが生きる糧だった。人間並みの知恵がついた今でも、ガインの思考はゴブリン特有の短絡的なところが如実に表れているし、今さらゴブリンの村で以前の自分を彷彿とさせる者たちの中で生活したいとはあまり思わない。そして、文明的な暮らしに慣れてしまったガインには、バンハールは魅力的過ぎたし、母にいい暮らしをさせてやりたくもなっていたガインにとって、ここは移住先として最適に思えていた。異種行き交う大都市も、郊外ののどかな田舎も治安がいい。定期的にアンデッドが発生する事件が起きるらしいが、神殿には多数の僧侶や神殿騎士がいて、遅れを取ることはこれまでないというか、むしろ迅速に殲滅出来るほどらしい。ジダール家は全員ガインを歓迎してくれているし、ガインになついているユウも滞在をせがむ。出立が延び延びになっていた理由は、ジダール家の面々だけの仕業ではなく、ガイン自身の心にあった。夜明けと共に祈りを捧げた後、冷気と日差しが作り出す朝の空気に身を晒し、街まで行って折り返す散歩に毎日出るのは、ガインがこのバンハールを気に入ったからだ。バンハールは大都市だ。人種、いや異種のるつぼである。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、そしてゴブリン。市場まで来たガインが周りを見回すだけでも、これだけの数の異種が行き交っている。


思い返すと、街道での反応は何だったのだろう。たまたまガインと同じ様に田舎から上京してきた者ばかりで、異種に免疫がなかったのだろうか。バンハールでは、ガインが着ている鎧に目を向け尊敬の眼差しを向ける者はいても、ゴブリンでありながら人間並みの体躯を誇るガインの異容を気にする様子の者はない。当然の様に、市場の売り子や道行く子供が声をかけてくる。特に子供には大人気だ。騎士様騎士様と寄って来る子供たちに囲まれ、凄いだの、かっこいいだのと言われる。ユウもそう思っているのだろうか。

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