不死者デシネ
集会から一夜明けた。デシネ司祭は表の顔を持っている。精霊術士としての顔だ。治療、浄化から冠婚葬祭まで、精霊を崇める宗教の信徒、金がない低所得層の者たちが精霊術士を頼る。精霊術士の料金は安い。そして、デシネはさらに格安の安さで、この町の葬儀を一手に引き受けていた。しかし、実際に葬儀が行われたことはない。何故なら、葬儀を前に信徒が財産を処分して失踪してしまうからだ。
失踪した者は皆、土地も家も金も全てザハーク教団に寄付して姿を消している。常に怪しい話がつきまとうザハーク教団だったが、邪教故の胡散臭さが漂い、胡散臭い邪教であるが故に、行政の介入がないまま着々と力をつけていた。土地を各地に所有しているのも秘匿性を高める一因となっていて、半ば治外法権化していた。デシネは、この胡散臭い教団の司祭、というか、幹部の一人なのだ。
ザハーク教団は、死霊や不死を崇め、禁忌の魔法に手を染める邪教だ。犯罪も厭わぬ教義の為、司祭と狂信者がしばしばアンデッドを生み出し深刻な被害を出す。しかし、それが教団によるものという証拠がないし、当事者である信徒が姿を消す為、事件の多くは被害だけを残して闇に葬られた。
デシネは、禁忌に手を染める遺族を探していた。死者の魂を遺族の魂と縫い付けて体に定着させ、不死化させる禁忌の術だ。この術は四年に一度しか行使出来ず、愛する者の死を受け入れられない遺族の血と涙なくしては完成しない。怨嗟の念を増幅させる為に、遺族には蘇生術だと嘘を吹き込み、死者と魂を繋いだ後に「蘇生術などない」と教えて現実に絶望させ、殺して不死化させる。
通常は、生への未練から覚醒した死体が、生前の自我を失いアンデッドとなるが、この方法ならば、自我を持ったまま生を憎んで夜を彷徨い、人を襲って徐々に狂い、魂を黒く穢しながら自我を失う不死者になる。そして黒くなった魂の憎悪の矛先は、自分を騙し操り嗤うデシネへと向かい、デシネに魂の穢れを喰われる。デシネは、魂を喰らう術を持っている高位の不死者なのだ。迷える魂を生み出し喰らうことで、より強大な不死者へと進化し、邪神へと近付く最悪の存在。それがデシネだ。
邪神を目指すが故に遺族を騙し、遺族を騙したが故にデシネは罪と業を背負い、呪いを受け、穢れ、より道を外れて邪神を目指す。
バンハールにおけるアンデッド発生は、デシネの進化の為のものであった。




