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闇に灯る
闇夜の礼拝堂にぽつりぽつりと人の気配がある。聴衆は十人もいない。三連燭台には、火の付いた蝋燭が三本立ち、横長の演説台の左右に一つずつ置かれている。蝋燭の火は、司祭と見られる男をぼんやり照らし、闇に溶け込むその不自然さを隠している様でもあり、同時に暴き出している様でもある。
男の目は虚ろに濁っていて、生気というものがなく、痩せこけて不健康そうな容姿と相まって、雰囲気はまるで幽鬼だ。
「生命というものは短く儚い。すべからく、私たちは愛する者と別れねばなりません。死と生を別つ時、私たちは悲しみを得、愛を失うのです。しかしどうでしょう。愛する者と別れずにすむとしたら?ずっと一緒にいられるとしたら?魂の安息は死者だけのものではない。生者が共有してこそのものなのです」
聴衆の一人がすすり泣く。喪服を着てベールを被っているエイミー・ジダールだった。司祭と目が合ったエイミーの口元に笑みがこぼれる。涙ながらのその笑みには歓喜の色があった。エイミーは、夫の死を受け入れていなかった。司祭も笑みを返す。虚ろだった目は見開かれ、狂気の輝きが灯っていた。




