消えた背中、残る背中
服部あずみが、アリスの死の映像を見て、二週間が経った。
ふさぎ込み、家に引きこもっていた服部のもとに、ゴードンと妻エルザが訪れる。
畳に伏せって、泣き続けるあずみの肩に、エルザがそっと手を置く。
あずみは、エルザの手に自分の手を重ねる。
エルザの目にも涙が溢れる。
「あずみちゃん、たまには何か食べないと…」
「お母さん、私、アリスのこと、もっと大切にしとけばよかった…」
「あずみちゃん…」
この二週間、あずみも、エルザも、何も手につかなかった。
ゴードンは、泣き崩れる二人の震える背中を、やりきれない思いでしばし見つめた後、そっと外に出た。
そして天を仰ぎながら目を閉じ、声を圧し殺して、一筋の涙を流した。
「店を開けないとな…」
目を開けて、何気なく店の角を見ると、店の軒先に出ている丸椅子が、角の向こうから半分ほど見えた。
いつもアリスが座っていた椅子だ。
丸椅子を見ると、ゴードンの目に涙が溢れてくる。
椅子にはいつも、アリスが座っていた。
がに股で足を開いて座り、腕を組み、金髪をたなびかせているアリスの後ろ姿の幻影が、浮かんでは消えた。
「ぐう…、うっうう…、ぐ…ああ…」
嗚咽を漏らしたゴードンは、壁に手を着き、その手の甲にこめかみを付けた。
椅子から目を離せなかった。
「ああ…あああ…ああ…」
口が悪く、がさつで、ずぼらで、怠け者で、図々しかった。
でも、まるで本当の娘の様だった。
そこにいるのが、当たり前になっていた。
涙溢れるままのゴードンは、嗚咽が漏れるまま、恰幅のいい背中を弱々しく丸めた。




