メの焦燥
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ゴグ族のゴブリン・メイジ、ゴグ・メは焦燥しきっていた。険しい森を歩くなど、もう何年もしていない。体躯が元々小さいゴブリンは、体力的に恵まれていないし、メはゴブリン・メイジ。一際体力がない。そんなメにとって、行軍による疲労は大きい。
普通の行軍ならばまだいい。メの体力が奪われるのは、メの前を行く、銀の鎧に身を包んだゲブ族のゴブリン・テンプラー、ゲブ・ズ・ガインのせいだ。ガインはゴブリンとしては大きすぎる。170cmを超える人間並みの体格など、ゴブリンの常識では考えられない。お陰でガインの体力は桁外れだし、歩幅が大きい。
今回の行軍はガイン、メを除けば、後は多数のゴブリン・シーフとゴブリン・アーチャーのみだ。彼らにとって、森は得意な地形といえる。よって、移動速度が非常に早い。そして彼らはガインの速度に合わせて進むのだ。
(…なゼ、こんなことになっタ。ガインが逃げ帰って来たまではよかっタ。臆病者は追い出せル。そうすればこの村のゴブリン族はこのメが統治出来るだろウ。それを見越して、ゲブ族・ゴグ族両族のゴブリンを集め、その前で報告をさせタ。ガインを非難し、追い出す為ダ)
だが忌々しいガインの報告は、想像を絶するものだった。
魔王の復活。それも複数。誰もがこの報に戦慄し、絶望した。
魔王が出現するとなると、この辺り一帯に高位の魔物が現れ出すだろう。その時、ゴブリンの村が無事なワケがない。
報告の最後に、ガインは言った。
「メ殿、力を貸していただきたい!共に奴らの討伐を!」
やられた、とメは臍を噛んだ。
メは、ガインの後ろ姿が視界に入ることに苛立ちながら歩く。疲労は何も肉体的なものだけではない。ガインのもたらす精神的な疲労こそが、メに重くのしかかるのだ。
 




