残念ですよ
泥島がレインに抱く戦意は、敵意は一方的なもの。
その内訳をレインが聞いても、きっと理解出来ないであろうもの。
その憤りは、逆恨みに近い。
「……」
泥島は前戦でレインらと対峙した時に土の弾丸を乱射した。
その時レインは、フィリップを黒貨で守った。
無力なフィリップを確かに守ったのだ。
「……」
あれがあるから、叔父を慕っての“混沌”所属には納得出来る。
だが。
「……」
あれがあるから、“混沌”所属に納得出来ない。
「いや、分かるんですけどね……」
泥島の脳裏によぎるのはアリスの顔。
元気で真っ直ぐで人情味があるが、泥島が思うに、アリスは正義感が強いとは言えない。
女たらしだし、気に入らない者には容赦しない。
アリスは善悪ではなく、自分の感情のみで動く気分屋だ。
そしてそんなアリスの性格とは相容れないと常々思っている。
泥島は自分の感情に正義感が組み込まれがちだ。
弱者の涙を見ると首を突っ込んでしまう。
だからレインを見ていると憤りが大きくなる。
一つ一つ見聞し、心の邂逅を果たしてレインを理解したからこそ、レインを理解出来なくなってきている。
「残念ですよ」
レインの視界から泥島が消えた。
巨体に似合わぬ泥島の素早い動き。
レインが気付いた時には、泥島は側方にいて、真っ直ぐ繰り出した打ち下ろしの拳がレインの肩から腕にかけてめり込んでいた。




