シャサの帰還
「じじい、今戻ったぜ!」
カワベの屋敷の外で、シャサが声を張り上げた。
屋敷は塀で囲まれ、門戸は閉じられているが、押せば開く押し戸だ。
閂などかけられたことなどなく、シャサもそれを知っている。
だがシャサは軽く跳躍し、塀の上に立つ。
敷地内には庭園があり、玉砂利が敷き詰められていて、そこに白髪に長い白髭の老人が一人立っていた。
「戻ったか、ドラ息子よ」
「孫って言えよ、じじいなんだからよ!」
本当は疲労で今すぐにでもその場にへたれ込みたいシャサだが、カワベの前では張り切って、憎まれ口を叩いてしまう。
それを受けてカワベはニヤリと笑う。
白髭が風に揺れた。
カワベにとって、シャサの言葉はまさに子の言葉。
いくら憎まれ口を叩かれても、不快感などは微塵もかんじない。
親なしの赤子のシャサを拾い、育てたせいで、実子と錯覚するほどだ。
その絆は強い。
お陰で、シャサのことなら何でも分かる。
空元気を出しているが、今回の帰還には何か理由があるのだろうということも。
「早い帰りじゃが、何かあったか」
「ああ。 短期間で出来るだけ強くなりてえ。 ガキを一人、拐って来た」
シャサのこの言葉は、誰が聞いても支離滅裂のはずだ。
しかしカワベは頷いた。
「まあ入れ。 奴も戻って来ている。 お前と同じで、強くなりたい、とな」
「あずみが戻っているのか」
「そうじゃ」




