先手の一撃
ガインがジャン・ジャックに向け、一直線に駆ける。
ジャン・ジャックも同じく駆けた。
ガインの大剣が右手一本で袈裟に振り下ろされる。
ジャン・ジャックから見ると、左肩から入って右の脇腹に抜ける軌道だ。
すかさず左足を、反時計回りの小さな円の軌道を描く様に振り上げながら跳び、大剣の腹に足裏で蹴りを放つジャン・ジャック。
そのまま斜め上に飛び上がるつもりだったが、ガインは剛力で剣の軌道を変えて横に凪ぎ、ジャン・ジャックを吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされながらも、その瞬間に左手でメスを投げるジャン・ジャック。
だが、ガインは気にも留めない。
メスは銀の鎧に容易く弾かれた。
爆発的な速度で接近するガインは大きく跳び、大剣を真っ直ぐ振り下ろす。
ジャン・ジャックは深く前進し、ガインの着地地点の手前に陣取る。
そして、左足を右後ろに引き、体を半身にして剣撃を間一髪でかわしながら右足も引く。
その時、右の拳を握りながら引き、腰と腕の回転を乗せた正拳突きを、ガインの心臓部分へ向けて繰り出す。
「せぃやぁ!」
ガインが着ている銀の鎧が、鈍い音を立ててへこむ。
「ぐあっ!」
吐血するガイン。
「当たらんよ。」
距離を取り、言葉と裏腹に、ジャン・ジャックは脂汗を滲ませる。
ガインがゆっくりと口を開く。
「当たれば即死だったがな。」
そして、血の混じった唾を地面に吐き、大剣を地面に突き刺して、鎧を脱いだ。
「己も拳でやりたくなった。」
ガインは仁王立ちで、右拳だけ握り、絞る。
ジャン・ジャックの視界が恐慌で揺れる。
鼓動が脳天まで響く様な緊張感を感じているジャン・ジャックは、感情を握り潰す様に両拳を握りながら、両腕を眼前でバツ字にクロスさせ、深く長く息を吐きながら、腕を両腰まで下げた。
そして、ぺろりと唇を舐め、舌を奥歯に引っかけて切り、小さな傷を作った。
口内に血の味を感じながら、もう一度深く息を吐くと、もう鼓動は聞こえなくなっていて、ジャン・ジャックはガインを真っ直ぐ見据えた。




