凶悪な殺意
「!」
当然、ツェゲンたちは一斉にハッとした顔になった。
ザハーク教団は邪神を信仰する団体である。
当然、邪神を名乗る者には注目する。
しかし、この“邪神”というワードを嫌う信徒も多い。
自分たちが信じる神を邪だと言うのは不敬だという解釈なのだ。
よって、クマガイを値踏みする様な目で見る者もいる。
その視線に対して、クマガイはあからさまに不快感を示した。
「何だよ、お前ら」
その声は怒気に満ちている。
一瞬にして空気が張り詰めた。
「……!」
息を飲むツェゲンたちを鋭く睨むクマガイが、爪を出して構える。
(死にたいのかよ?)
その重圧に耐えかねて、全員が視線を外した。
すると、クマガイから殺伐とした雰囲気が少しずつ消えて、遂には、完全になくなった。
「ま、俺の言うこと聞いてくれればさ、変なことしないから」
クマガイは、他者の視線に敏感だ。
特に、嫌悪や疑念の視線に敏感なのだ。
それは、前世の記憶の中に植え付けられていた熊谷としての反応がベースとなっている。
だから、前世の記憶が植え付けられたものと分かっていても、咄嗟に反応してしまう時があるのだ。
(やっぱ他人相手だとすぐキレそうになるな)
クマガイは自分の気性の荒さに少し落胆しながら目を伏せた。
仲間たちに対してはそれなりに自制がきいても、ツェゲンたちにはそうではないことで、自分の荒さを認識せざるを得ない。
今は怒気がおさまっているが、また何かの拍子に簡単に高まりそうだと思わずにはいられない。
そう思うのは、ツェゲンたちも一緒だった。
そして、クマガイの凶悪な殺意は、まさに邪神そのものなのだと思わされたのであった。




