ただひたすらに押す
こうなれば、目の前のデシネは敵。
そして語りかけてくる者の話など聞かない。
聞く耳など持たない。
無風の空間の中で、クマガイを中心に風が吹き荒ぶ。
それはまるでクマガイの心象風景の様。
うねる風が、クマガイのえもいわれぬ感情の象徴の様に見える。
その暴虐さを、黒の操縦者は警戒した。
そして、クマガイの全ての感情が自分に向いていることに戦慄した。
「っ!?」
全身全霊で意識を研ぎ澄ませた黒の操縦者は、クマガイをその目に捉えていたはずだった。
だが、確かにその姿を見ていたのに、クマガイが消えた。
……様に見えた。
「ッ!」
その瞬間、黒の操縦者が操るデシネは、闇の気をその手に宿し、大きな刃にした。
気は集束され、鋭く尖った、長大な闇の刃だ。
その切れ味はいかなるものも寸断する、はずだが、クマガイの爪撃とぶつかり合う。
そして爪を欠けさせることすらかなわなかった。
(防げた、が……!)
闇の刃とクマガイの爪の押し合い。
息がかかる様なゼロ距離に、クマガイが浮いていて、狂暴な風が吹き続けている。
鍔迫り合いは、元来、押し引きの駆け引きがあるものだが、小さな体躯のクマガイが、力強く剛直に押す。
駆け引きなど一切なく。
ただひたすらにクマガイは押す。
踏ん張るデシネの足だが、そのまま押し負け、デシネも、黒の操縦者も、同時に顔を歪めた。




