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入れ替わる様に
だが、何も起きない。
穴倉の声は誰にも届かない。
「……」
沈黙の中、ぼんやりとアリスの亡骸を改めて見つめる穴倉。
「俺は戦うはずだったのに」
今しがたアリスを喰らってパワーアップしようとしたこと、そして戦おうとしていたことが、何だか他人ごとで、遠い昔のことの様に思えた。
「戦う気がなくなってしまった」
戦いこそが穴倉の全てだった。
なのに、今は戦いに気持ちが向かない。
アリスが目の前で死んでいて、その死がどうしようもなくそこに在ることが、穴倉の心を不意に押し潰してしまった。
「目的がないから……かな……」
力なく呟き、遠く離れたクマガイの背に目を向ける穴倉。
黒球憑きのデシネと対峙するクマガイの背中からは、闘気が発散されている。
穴倉と入れ替わる様に、戦う意思を強固に抱くクマガイ。
その顔にはもう、甘さや卑屈さの類いは一切ない。




