見ていたら助けてくれ
その瞬間、穴倉の胸に去来したのは、悲しみだった。
「嫌な……気分だな」
そういうと穴倉はうなだれる。
こんな気持ちになるとは、想像すらしていなかった。
「……」
空虚に上方を仰ぎ見る穴倉だが、その目は虚ろで、何かを目で捉えているわけではない。
ただ、自分が今したことを思い返している。
すなわち、捕食についてである。
「喰って、こんな気持ちになったことないよ」
穴倉は、捕食によって強くなってきた。
故に、相応の力を得られるだろうという気持ちで、アリスの亡骸を丸呑みにした。
だが、言い知れぬ程に心が揺らぎ、不快感が襲ってきた。
アリスを喰うことが、とても不快にかんじたのだ。
脳裏によぎる、アリスの顔。
耳に残る、アリスの声。
これまでかわした会話。
激突の記憶。
その全てが、穴倉の心をかき乱した。
「うっ、ぐぇっ」
嘔吐する穴倉。
すると穴倉の頭が割れた。
穴倉は、背から伸びる触手を自分の頭の中に突っ込み、アリスの亡骸を引きずり出す。
そしてそのまま、目を瞑る。
「カプリス、見ているんだろ。 見ていたら助けてくれ。 アリスを」
そして目を開ける。




