丸呑み
思えば穴倉は、何かに従って生きてきた。
本能に、誰かに、何かに従って生きてきた。
そこに自分の意思があったのか、なかったのか、穴倉本人も分からない。
突拍子のないことも沢山したし、とにかく誰かと衝突した。
そんな時、決まって感情が昂った。
「アリス」
穴倉は、足下に転がるアリスの亡骸を見つめる。
顔は髪がかかっていて見えない。
自分の呼吸が、鼓動の音が、やけに大きく聞こえる。
(これがショックってやつか)
戦闘生物としての本能に従って生きてきた穴倉は、他者の生命を奪うことに抵抗がない。
それは、アリスが相手でも変わらないだろう。
戦闘になれば、殺すことに抵抗感はない。
しかし、自分の関わらない死には、思ったより耐性がないことをしみじみ自覚する。
(俺は動揺してる。 この気持ちを消すには、戦うしかない。 戦いは何もかも忘れさせてくれる)
穴倉は、デシネと戦うことを心に決める。
デシネが、黒球がいなければ、アリスがこんな目に合うことはなかったと思い、ならばデシネもろとも黒球を滅ぼすと、心に決める。
だが、今の穴倉のままでは勝てないだろう。
「勝つから」
ならば、力を得ればいい。
穴倉は、アリスの頭を拾い上げ、しっぽをアリスの体に巻き付ける。
穴倉は、大きく口を開いて、アリスの頭と体を放り込む。
そしてごくりと音をたてて丸呑みにした。




