恐怖と、消沈と、困惑と
その様子を見るイルマとクマガイ、そしてシャノンは愕然としていた。
イルマはもちろん、夫デシネが邪悪で禍々しいものになった場面を今まさに見ているからで、クマガイ、そしてシャノンは、黒球と繋がりかけた経験に思うところがあるから。
特にクマガイのショックは大きい。
クマガイは、穴倉と対峙した時に今も不穏な空気を醸し出してしまう。
元来、後ろ暗い気持ちになってしまう性質を持っているし、闇の存在たる黒球が、後ろ暗い感情と結びつくことをかんじるクマガイは、恐怖と、消沈と、困惑がまざった、混沌とした感情に呑み込まれ、ただぼんやりしてしまっている。
一人、また一人と、黒球の邪気が伝播して、異常な動きを見せる中、クマガイはただ動けなくなっていく。
だがその時、アリスが声をあげた。
「クマガイ、やれ! 俺が生き返らしゃいいわ!」
その言葉にハッとしたクマガイは、疾風の様に飛翔して、邪気に侵された者の首を刈った。
震える動きをしている者たちは、デシネを除いて動きが鈍く、一撃で絶命してゆく。
生き残っているのは、デシネ、イルマ、シャノン、穴倉、アリス、そしてクマガイ。
「ククク……」
異様な目付きのデシネがイルマの腰を抱き、自分の中に沈めて行く。
イルマは、デシネの顔を見つめたまま、無抵抗で沈んで行く。
「何で……」
そう言葉を発したのは、イルマとクマガイ。
何であなたが?
何でこんなことに?
そう思う二人の、恐怖と、消沈と、困惑の感情を切り裂く様に、シャノンが動いた。
「うぁぁぁぁっっっ!!」
シャノンはイルマの体を掴み、デシネを足蹴にして、夫婦をひっぺがそうとする。
だが、足がデシネに囚われ、沈んだ。
「くそっ、クマ! 私たちの首を落とせーっ!」
それは、自由に動けるクマガイに向けた言葉で、反射的に動いたクマガイは、望まれた通りシャノンを切り裂いた。
そしてその勢いのまま、イルマとデシネも切り裂こうと爪を振るう。
だがかわされ、デシネの全身から放出された黒い波動に吹き飛ばされた。
クマガイは、風を噴き出して空中で姿勢を制御し、再度突撃しようとデシネを睨む。
「混血熱線砲ァァァ!!!」
その時、穴倉が頭部と胸の砲門を開いていて、二つの熱線砲を全力で撃った。
集束された巨大な閃光が、デシネに向かって伸びる。




