歪んだ笑み
その反応を見て、アリスの顔には笑みが浮かぶ。
「釣れそうだわ」
「そうですね」
デシネも顔に微笑みを浮かべる。
二人の笑みは全く異なるもの。
アリスの笑みは邪悪さすら(はら)孕んだ様な、口が裂けているかの様な、悪魔的な笑み。
そしてデシネの微笑みは、一見柔らかいが、目が笑っていない。
これもある意味で悪魔的といえよう。
二人の笑みを見る他の面々は、今何が行われているのか、全く理解できずにいる。
だが、何かが起きそうな気がして、興味深く注視していた。
そんな中、空間の向こう側では、黒球の魂の種火が少し大きくなった。
そして、アリスの魂の糸に食らいついた。
「来たわ!」
「ええ。 引っ張って下さい」
「おうよ!」
アリスは、デシネに言われるがまま、魂の糸を手繰り寄せた。
まるで釣りの様相を呈した魂の手繰り寄せ。
黒球の魂はこれといった抵抗をせず、すんなり手繰り寄せられ、釣りはすぐに佳境を迎える。
空間の壁に引っかかる様にして動きが止まったのだ。
いつの間にか種火は小さくなり始めていて、アリスの魂の糸に染み入っている様だ。
するとデシネの笑みが邪悪に歪んだ。
それは、およそ司祭と呼ばれる者の顔ではない。
聖騎士ガインは、少し離れたところから、デシネの横顔を見ていたが、デシネの歪んだ笑みを見た瞬間、一直線に突撃し、大剣を振るっていた。
「おおッ!!」
しかしデシネは、アリスの手に重ねた手を離し、ガインの一撃をかわした。
人間のはずのデシネの笑顔が、ガインには、邪悪な歪んだ笑みに見える。
「違ったならばそれでいい!!」
再び突撃するガイン。
同時に、穴倉、ジャン・ジャック、そして吸血鬼たちが、一斉にデシネに襲いかかった。




