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これ絶対うまいやつ

 食料問題は解決したかに見えた。

 ガイン一人が作る量で、この天使の空間にいる全員分の食料は容易に賄えるし、吸血鬼は血があればどうとでもなる。

 デシネは俯瞰で現在の状況を見ながら、ガインをじっと見つめた。

 アリスたちと共に糧食を貪り食うガインは、アリスたちの輪に溶け込んでいる。

 アリスは華やかな美少女、クマガイは獣じみていて、穴倉は気味の悪い謎の生物。

 ここに加わるゴブリンのガインは、デシネには魔物を餌付けする人間に見えた。

 デシネはガインと、束の間、対話したことがある。

 その時のガインの印象は人と変わらず、心と心で友になったという実感があった。

 だからこそ、水を差すまいと黙っていることがある。

 それは、生産魔法を使えるのはガインだけではないということ。

 しかしデシネは、それをあえて言いはしない。

 アリスとガインの関係性に割って入る様なことはしない。

 異形の四者が糧食によって繋がる様子は何だか微笑ましい。

 デシネの傍らには妻もいる。

 のんきに過ごす状況ではないかもしれないが、デシネには、周囲の煌めきも相まって、輝かしい時に思えた。

 だが、アリス、クマガイ、穴倉、ガインの四人には、微妙な空気が流れ始める。

 糧食には、致命的な問題点があるからだ。

 誰もがすぐに気付いたし、あえて無言でいたのに、アリスが無神経に口火を切った。


「口ん中の水分、ぜんぶ持ってかれるわ」


 一斉にアリスを見る三人。

 無神経なアリスの一言は、まさに全員の総意だった。

 後先考えずに糧食を口いっぱいに詰め込んだ四人の不満が一気に噴出する。

 もう止まることは出来ない。


「水の魔法ないんか。 水がほしいわ」


「風ならあるけど」


「俺、水はないよ」


(おれ)もない」


「どいつもこいつも役立たずだわ」


「お前こそ」


「お前こそ」


「貴様こそ」


 アリスと三人が一瞬睨(にら)み合う。

 デシネと妻は顔を見合わせて苦笑したが、共に表情は明るい。

 それはアリスたちの子どもっぽさに呆れた苦笑だが、嫌な気持ちはしなかったからだ。

 デシネと妻が尚も見ていると、アリスたちは空腹を満たしたお陰か、本格的な争いはせず、口をモグモグと動かし続ける。

 アリスは口の中の糧食を飲み込んだそばから、新たな糧食をガインの手から取って食べ続けながら、「水はまぁ置いといてよぉ、こっから出るにはどうすんだって話だわ」


 そういうが早いか、アリスは火を(てのひら)から出し、あらぬ方向へと撃った。

 火はどんどん遠くへと飛んで行って見えなくなる。

 それを見たクマガイ、穴倉、ガインの視線は、ガインの(てのひら)に一斉に向けられた。

 アリスは仏頂面でしばらく黙っていたが、ハッと思い立って、ガインの(てのひら)の糧食を手に取って火魔法で(あぶ)る。


「これ絶対うまいやつ」


 そして四人は、香ばしさを得た糧食に舌鼓を打った。

 デシネと妻はまたも苦笑いだ。

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