よかったね×よかったね
穴倉は、それも気に留めた様子なく、爪を伸ばした。
クマガイは一瞬ビクッと反応する。
だが、穴倉に攻撃されることはないと理解し、すぐに弛んだ。
穴倉は穏やかな目で、周囲の煌めきをあちこち見渡している。
今、穴倉の興味がクマガイに向いていないのが、否応なしに分かる態度だ。
クマガイはそんな穴倉を見て、少し眉をひそめた。
(何を考えてるのか分からない奴だけど、興味が何に向いてるかは分かりやすいなあ)
そして小さく肩を落とす。
多少なりとも激突した間柄で、クマガイは穴倉をそれなりに意識しているが、穴倉の方はまるで眼中にないかの様な態度に、悔しさと寂しさが混じった感情が去来したのだ。
だが、さほど大きな感情でもなく、突っかかる程の怒気は湧かない。
そんな微妙な気持ちのクマガイをよそに、穴倉は軽く爪を振るう。
煌めきを斬ろうとしているのだが、すり抜けるばかりで、何の意味もない。
「当たらないな、何でだろう」
「よかったね」
ぼやき半分のクマガイの反語。
穴倉は、何も考えず、ただ同じ言葉を返す。
「よかったね」
クマガイは無言で顔を背け、顔の方向に体を向けて、穴倉を眼中から外した。




