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誰だ(よ)
天使憑きの女のことは、フォンテスも気になっていた。
確かに顔には見覚えがあるのだ。
フォンテスは、マシアスの顔を見ながら、「同族か?」と問うた。
そしてすぐさま、「いや、違うな……」と言って首を振る。
「同族ならば」
「分かりますもんね、目で」
「そうだ」
吸血鬼の瞳は赤い。
それだけで判別がつくし、記憶にも残るはずだという共通認識がフォンテスとマシアスにある。
そして、見たことがある、という共通認識がフォンテスとマシアスにはある。
だが、二人とも思い出せてはいない。
「人間ならば、出資者の顔しかわからん」
「ですよね」
彼ら吸血鬼は各地に信奉者がいて、様々な便宜をはかってもらえる。
そういった相手だったかもとも思うが、はっきりしない。
マシアスは、笑い顔混じりの微妙な表情。
「人間の顔なんて、いちいち覚えてらんないですしね」
と、シャノンが会話に入ってきた。
「あれは神官ミラーでは?」
一瞬の沈黙後。
「誰だ」
「誰だよ」
フォンテスとマシアスが、一斉にシャノンに返答するが、二人の記憶の中には、ミラーの名は影も形もなかった。




