穏やかな説得と恭順
「少し、話しませんか」
先刻、デシネがそう言ってから、少し時間が経った。
クマガイが、デシネとゾミの間を横切って、穴倉に向かって行った瞬間から今まで、デシネとゾミは何のアクションも起こさず、ただクマガイと穴倉の戦闘を見ていた。
デシネたちは、クマガイと穴倉の関係性を詳しく知っているわけではないが、共闘関係になっていたことは分かる。
そしてそれが、アリスを挟んでの関係性であったこともかんじられた。
戦闘中、クマガイと穴倉が、並々ならぬ意識を向け合っていた背景に、アリスが絡んでいるかは分からない。
だが、自分たちが対峙している図式と似ている様にかんじて、デシネも、ゾミも、異形の戦闘を見てしまっていたのだった。
すると幾度目かのクマガイの突撃が勝り、穴倉に一撃を加えた。
何度も穴倉に返り討ちにあっていたから、クマガイが勝ったとは、デシネもゾミも思わなかったが、異形の二人の間では、あれはクマガイの勝ちらしく、戦意が急速に萎んで、戦闘は終了と相成った。
デシネもゾミも、そんなクマガイたちの姿が理解不能であったが、アリスが二人の傷を癒している姿を見ると、何かが納得出来た様な気がして、さぁこれから戦うぞという雰囲気にはならず、顔を見合わせると、互いに毒気が消えているのが見て取れて、穏やかに向かい合うことが出来た。
「ゾミ、ここはお互いに退きませんか」
「……」
「アリスならば、あなたを人に戻すことも可能かもしれません」
「……」
「少し話しただけですが、アリスは、救いの代償に、些末なことしか求めませんでした」
「……」
「私に考えがあります。 これからも共に来てはもらえませんか」
「……」
デシネの言葉に、ゾミは無言のまま。
しかし、黒球の気はほとんど消え去っていて、それが恭順の意思と見ていいのだと、デシネには分かった。




