2023/2233
横切るクマガイ
デシネは黒い気をまとった手を下ろした。
気はそのままで、臨戦態勢を保ったまま。
だが、それは応戦の為であり、自分からは仕掛けないという、デシネなりの意思表示。
アリスならば、隙ありとばかりに突撃する場面だが、ゾミは微動だにしない。
「何のつもりですか」
表情変えず言いながらも、ゾミは、心の何かが少しだけ溶けた気がした。
ゾミにとってデシネは大恩ある人物。
対峙してもそれは変わらぬ事実。
故に、闘志が小さくなったデシネに無意識に呼応してしまう。
「……」
ゾミの周りに渦巻く黒い気が小さくなる。
心に連動して増減するのだ。
黒球と繋がっていたデシネは、皮膚感覚でそのことを無意識に知っている。
(今ならば話せるはず)
そして手に宿る気の出力を、さらに小さく絞りながら、デシネは口を開いた。
「少し、話しませんか」
ゾミは返答せず。
しかし、デシネには分かる。
次の言葉を待っていると。
そして、対話を始めようとしたが。
「うぉらぁ! 穴倉ァァァ!」
デシネとゾミの間を、クマガイが横切った。




