デシネの正念場
アリス自身も、この場における生命の軽さが無意識に念頭にある。
自分が誰も彼も簡単に復活させてしまうので、復活が簡単なことだとアリスは思っているのだ。
だが、復活は誰もがなし得ることではない。
それをアリスは知らないのだ。
「ちぃぃ、どうするアレェ……!」
アリスが上空を睨む。
ゾミを取り巻く黒い気はうねり、膨れ上がって、規模がとてつもなく大きくなっている。
その瘴気を警戒して、デシネが距離を開けてゆく。
黒球の力と繋がっていたが、人に戻ったデシネだからこその警戒である。
「相手にすると、困ったものですね。 私は人を捨て、邪神となって力を得ましたが……」
務めて冷静に言うデシネだが、言葉そのままに、いや、実はそれ以上に困っている。
自分が黒球の力と繋がっていた経験があるが故に、攻めあぐねているのだ。
(天使である彼女があの力を得たら、果たしてどれ程のものになるか、想像もつかない。 まだしばらくは彼女個人の意識もありそうだが……)
黒球と繋がると、精神が汚染され、心が個人のものとは似て非なる邪悪なものになる、とデシネは考えている。
邪神であった時の自分の心を、デシネはそう解釈しているのだ。
(けじめはつけねばなりませんね。 そして、守らねばならない)
デシネは、悲願である妻の救出の為に、なりふり構わずやってきた。
信者だろうがゾミだろうが誰だろうが利用するつもりでいた。
そして、全てをつぎ込んできた結果、黒球とゾミの接近という最悪の事態へと繋がっているのだと思っている。
ゾミと黒球を何とかするのが自分の責任だと思っている。
黒い気を拡大してゆくゾミと対峙するデシネは、今が正念場だと思っている。




