何事もなかったかの様に
フォンテスは穴倉を心の中で化け物と呼んだ。
それは無意識のうちに、吸血鬼と比較して、化け物だと思ったからこそだ。
逆にいえば、フォンテスは吸血鬼を化け物だと思っていないということだ。
自分も、自分の仲間たちも吸血鬼。
フォンテスは、ただただそう思った。
そしてそれは、自分の種族である吸血鬼に愛着を持ち始めているからこそだ。
愛着を持ち始めているからこそ、そして、再びの吸血鬼の団結を願って、吸血鬼と穴倉を別の生物だと明確に打ち出そうとする。
「奴は俺たちとは違う。 そうだな? シャノン」
その結果、フォンテスはシャノンに説明を求めた。
それは、フォンテスなりの、吸血鬼の長としての判断だった。
吸血鬼は気が荒く、好戦的だ。
時には、思想信条の僅かな違いですら争いの火種となる。
故にフォンテスは、シャノンが離反しかけたことのわだかまりを気にしたのだが、マシアスもイゴールも、反感の目ではなくなっている。
「……!」
シャノンはそれに気付き、内心その気遣いに胸を熱くした。
だが、態度には出さない。
「……」
そして、しばらく沈黙したものの、何事もなかったかの様に淡々と話し出すシャノン。
「……はい。 私たちは吸血の魔物。 あれは魔物を食らう魔物。 あれは吸血鬼ではありません。 吸血鬼が、あの様に変化することはありません」
シャノンの視線の先の穴倉は、全身が銀色へと変化し始めている。
更に、銀の翼がその背に生えた。
吸血鬼たちも、何事もなかったかの様に、一斉に穴倉を見た。




