シルキーも悪くない
あれだけメイド服を気に入っているなら、恋人の自分がメイドになれば、喜ぶはず。
異性に何も与えずに生きて来たあずみにとって、恋人の為に変わりたいと思い、行動するのは初めてだった。
だが、影ぼうしでは、黒いマネキンがメイド服を着ている様なものだ。
それを果たして、可愛いと思ってもらえるだろうか。
あずみは、そればかりを心配していた。
だから、偶然シルキーになった時、内心悪い気はしなかった。
妖精種であるシルキーは、尖った耳以外、人間と変わりない見た目だったからだ。
お陰で今は、髪をとき、ナチュラルメイクで肌に適度な艶を与え、アリスより高くなった身長、豊満な肉体、美女と呼ぶに相応しい顔立ちをより魅力的に飾ろうと努力出来る様にもなった。
「アリス、おはようでござる。」
家事全般を極めて、本物のメイドになってしまえば、アリスの趣味も満たせるし、花嫁修行をしたも同然だ。
「おせぇよ!早くクエスト受けに行きてぇのによぉ!…何か今日キレイじゃん。」
あずみは微笑み、アリスの横に立って体を寄せ、その肩に自分の頬を乗せた。
アリスが黙る。
怒気が緩む雰囲気が、肩ごしに伝わって来る。
アリスを、そしてこれまでの自分を変えてくれる、今の自分。
シルキーも、悪くない。




