あずみの心
昼前。
ゴードン薬店の裏の家。
起床して、もぞもぞと着替える服部あずみの姿があった。
あずみは、今日も今日とて、メイド服だ。
進化してからというもの、畏怖の混じらない、男たちの熱い視線を感じる様になった。
だがあずみは、異性の目を気にしたこともなかったし、これからも気にする気はない。
だが。
フォンテスたちと戦ったあの日から、アリスの態度が変わった。
あずみを、女扱いする様になったのだ。
いや、これまでも女として見られてはいた。
だがそれは、単に性別が女だから、肉体的に女として見ている、という風だった。
しかし、今は違う。
何となく、精神的にいたわるところがあるのだ。
間違えてシルキーに進化した日など、夜中に目を覚ますと、気付いたアリスが優しく抱き寄せてくれた。
そしてずっと、頭を撫でてくれていた。
街を歩いていても、アリスは前世とは違って来ていた。
前は、あずみが有栖川の背中を追いかけて歩いていた。
今は、歩調を合わせたアリスが、あずみの横を歩く。
馬車など通る道の中央側をあずみが歩くと、腰を抱かれて、道の外側へ促される様になった。
だから、一緒に歩きたくて仕方がなくなった。
触られたくて、つい中央側を歩いてしまう様になった。
大事にされている実感があった。
こういったことが積み重なると、秘かに、アリスが好んで着ている服を、自分も着たいと思う様になった。
アリスの趣味に合わせるなど、これまであずみはしたことがなかった。
それどころか、忍者に心酔し、マイペースに一匹狼を気取っていた。
お陰であずみは、メイド服を着たい、とは素直に言えなかった。
誰にも言えなかった。
そこで、別のアプローチで、メイド服を着る理由を作る為に、突飛な作戦に出た。
本物のメイドになる。
これがあずみの、秘策だった。




