何者かに造られた存在
(ちくしょう、いつだってそうだ)
クマガイの脳裏によぎる記憶。
それは、自分を踏みつけられる辛いもの。
学校での記憶。
病室での記憶。
どれもが、有栖川に屈する記憶。
(……いつだってそう? 何思ってるんだよ俺は)
クマガイは小さく首を振り、アリスに向き直った。
……つもりだった。
しかしアリスは、クマガイの視界にいない。
「どこへッ!?」
「殺ったわ」
アリスの声が背後からした。
それは死刑宣告の様なもの。
だが、しかし、クマガイの心には、アリスへの仲間意識や、喜楽の感情が湧き上がる。
それらは、クマガイ本人の感情のはずで、黒球の欠片の感情ではない。
だが、黒球の欠片は、クマガイの感情と溶け合い、クマガイを侵食した様に、自分もクマガイに侵食されていて、ありもしない過去に揺れ始めていた。
「ッ!?」
「よくぞ防いだわ」
アリスの振り下ろしの拳を、受け止めたクマガイ。
しかし、クマガイ本人は、依然として朦朧としてまどろんでおり、今現在、自身の体をコントロール出来ていない。
「そりゃどうも」
今、クマガイを動かしているのは、黒球の欠片。
クマガイの偽りの記憶に翻弄されつつあるが、黒球の欠片もまた、クマガイではないのにクマガイの体を動かす偽りの存在。
何者かに造られた存在。




