お前何それカロリーメ●ト!?
石に腰かけて、糧食を食べている時だった。ガサガサと向かいの茂みから化物が出て来た。
「うわ、ゴブリンだわ。金持ってるかもしれんから、カツアゲ安定だわ。んん!?」
化物の目がギラリと輝いた。ミサはとっさに戦闘体勢を取った。そして青ざめた。化物に敵対行動を取ってしまったのは失敗だ。
化物は、1度見たら忘れない異容だ。泥塗りの顔、プラチナブロンドの金髪、赤い眼、ねじれた七色の襟巻き、そして少々ゴスロリ気味の造りのエプロンドレス。異様な姿だ。そして強者の禍々しい雰囲気が嫌という程伝わってくる。これ程の化物に、やってしまったのだ。
「……!」
ミサは、腰帯の右側に挟んであるナイフを右手で逆手に握り、鞘から抜いて構えてしまっていた。足が震える。自分はもう村には戻れないだろう。死を覚悟しながらも気持ちを持ち直すしかない。勇敢に戦わねばならない、せめて一矢報いる、と闘志を燃え上がらせるミサに向かって、化物が口を開いた。
「お前何それカロリーメ●ト!?」
化物はミサの右手のナイフには目もくれず、左手に握られた食べかけの糧食を指差している。カロ●ーメイトが何なのか、ミサにはわからなかったが、物欲しげな様子を見るに、糧食を食べてみたいのだろう。
「た、食べるか?」
ミサが左手の糧食を差し出すと、化物が素早くひったくり、頬張った。
「んん?ちょっと味が薄くてあんまり美味くないわ。それにボソボソしすぎだわ。ボソボソしたクッキー感あるわ」
化物は、もぐもぐしながら、手を差し出してくる。文句を言う割には、まだ食べたいらしい。
「ちょうだいの手」
もっとよこせ、ということなのだろう。
「あ、ああ。たくさんあるから、よかったら食べてくれ。これは、私の村のガインという者が作り出した糧食だ」
ミサは、腰袋からありったけの糧食を取り出した。
「おぉ、大盛りとは気が利くゴブリンだわ。でもぶっちゃけ、粉っぽさにはウンザリするわ」
「ちょっと有栖川!せっかくくれるのに失礼でしょ!それにちゃんともらったお礼言いなさいよ!」
「出た出たオイ女子パワーが」
「何よ!あんたがいけないんでしょ!」
化物と、ねじれた襟巻きが口論を始めた。一段落すると、襟巻きがしゅるしゅるとほどけながら話しかけてくる。
「ごめんなさい、ゴブリンさん。私も一ついただけるかしら?」
「あ、ああ。どうぞ食べてくれ」
何と、襟巻きではなく、ミサが見たこともない虹色のスライムだ。スライムが糧食を受け取り、トプン、と体内に沈める。すると糧食が溶け出した。ミサは、スライムの食事風景を初めて見た。驚いていると、男の声がした。
「お前らだけ食ってんじゃねぇよ!俺にも下さいよ~ゴブリンさん~」
化物の顔から泥がペリペリと剥がれ、地面にべちゃっと落ちた。丸まり、泥の玉となると、苦悶の表情のおぞましい顔が浮かび上がってきた。どうやら妖怪の類いの様だ。
「ど、どうぞ」
ミサは泥の玉にも糧食を差し出した。玉は、ガツガツと凄い勢いで糧食を囓り始めた。何ともいえない怖気がミサの背筋に走る。そのまましばらく泥の玉を凝視していると、スライムに「アリスガワ」と呼ばれた化物が、またしても手を差し出してきた。ミサはさらに糧食を渡しながら、泥が剥がれたアリスガワの顔を見て驚いた。口いっぱいに糧食を頬張ってなお、可愛さと美しさが些かも損なわれていない、絶世の美少女がそこにいた。
「何という美。これ程までに美しい者を私は見たことがない。」
ミサの素直な感想は、アリスガワの機嫌取りには最適だった様で、糧食を飲み込んだアリスガワが、上機嫌でミサの名を訊いてきた。
「お前、正直者でいい奴だから、俺らの仲間にしてやるわ。名前教えろよ」
その時だった。




