スライムクイーン逃亡す
ギルバーティは拍子抜けした様子で、目を丸くしていたが、一旦目を閉じ、数瞬の後、再び目を開き、低く、暗い声で言った。
「本当なら、お前はここで死ぬ。」
ギルバーティの目は、玉虫色に煌めいていた。
「わ、わかってるわよ。」
何をしても勝てないであろう、絶対的強者から受けるプレッシャーに、ルリは震えが止まらない。
ギルバーティは、しばらくその様子を眺めていたが、目を閉じ、溜息した。
そして目を開けると、目に宿る玉虫色の煌めきはなくなっていた。
肩を竦めるギルバーティ。
「でも、ここで殺したら、面白くないぜ。だから、行っていいぜ?」
ひらひらと手を払う仕草で、見逃してやる、と伝えられたルリは即座に体を圧縮して縮め、水を思い切り噴射して後方に飛び上がった。
そして、凄まじい勢いで水を噴射して、元来た方角へ向けて逃亡した。
「俺が復活するか、お前がなるか、楽しみは取っといてやるぜ?」
ギルバーティが、逃げるルリを眺めながら言葉を発した。
と同時に、アレックスとクロキが、ギルバーティの目前に駆けて来た。
「敵か、ギルバーティ!」
「水の弾丸、きた…!」
ルリの放った流れ弾で異変を察知したのだ。
既にかなり遠くになったルリを肉眼で捉えたアレックスが叫ぶ。
「あれか!虹色だと!?魔王か!行くぞクロキ!」
追撃の意を見せるアレックス。
頷くクロキ。
「飛空魔法!」
「浮遊魔法。」
「追わなくていいぜ。」
二人をギルバーティが制する。
「何故だギルバーティ!?」
「逃げられてしまう…!」
「いいんだ。ここでは、何もなかった。いいな、何もなかったんだ。」
「あ、ああ。わかったよ、ギルバーティ。」
「…。」
アレックスもクロキも、苦虫を噛み潰した様な、渋い顔をした。




