セオドールとダーハム
「ああー、これで遅れたら、またアレックスに怒られちまうよー。」
ダーハムが情けない声をあげた。
二人は遅刻の常習犯で、いつもどやされていた。
「うるせー。さっさと森を抜ける道を探せー。」
セオドールは、迷う様に仕向けた手前、うしろめたさがあり、あまりダーハムの弱音を聞きたくなかった。
「泣く子も黙る蕀が迷子って、締まらねえよー。」
「うるせーって言ってんだろ。とっとと抜けるぞこの森をー。」
二人は冒険者パーティー〝蕀〟のメンバーだ。
遊び人のギルバーティ。
魔法剣の使い手であり踊術師のアレックス。
僧侶であり踊り子のクロキ。
吟遊詩人で盗賊のセオドール。
吟遊詩人で剣闘士のダーハム。
蕀は、この五人からなるパーティーで、妖霊とは別の意味で有名なパーティーである。
元々はセオドールとダーハムはコンビだったが、後から蕀に加入した為、小言を言われがちな立場にあった。
「あーあ。セオドールは盗賊なんだから、マッピングなんか得意なのに、何で剣闘士の俺に地図を渡すんだよー。それがおかしいんだよなー。」
ブツブツと、誰に言うでもなく愚痴るダーハムの目に、たまたま、小さな獣道が見えた。
「セオドール、あれ!」
ダーハムは獣道を指さす。
「このサイズで草をなぎ倒すのは、スライムの獣道だな。なかなか珍しいもんを見つけたな。行ってみるか。」
「えー?アレックスに怒られちまうよー。」
「金になるかもしれんぞ。」
「それを早く言ってよー。行こうぜー。」
二人は、獣道を辿ることにした。
ポコ。
「珍しいのか。そういえば、スライムは食ったことがないな。」
脈打つ透明な魔物が、地中から顔を出した。
「スライム…、池中はまだ、生きているかな?」
魔物は、また地中に潜った。




