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ハニートラップ

作者: 土刃猛士

 

 あら、いらっしゃい。お客さん見ない顔ね?

 初めて?

 そう……うふふ。

 なんだか固くなっちゃってぇ――可愛い。

 あっ、ごめんなさい。

 いいのよ、いいの。慌てないで、ゆっくりとでいいから。


 うふふ。


 えっ?何がそんなにおかしいのかって?

 ごめんなさい。気を悪くさせちゃったかしら。

 そんなに緊張して、お店にくるヒト――最近じゃ珍しいから、なんか初々しくて。

 違うの。

 いいえ、馬鹿にしているわけじゃ無いのよ。

 ただ――なんていうのかな……ちょっとだけ。そう、ほんのちょっとだけ、昔の自分を思い出しちゃった。

 えっ?酷いなぁ――あたしにだって、お客さんみたいに純情な頃があったのよぉ。

 そうは見えない?

 今じゃこんなに髪の色も染めて、メイクもばっちり極めて――あっ、ケバイと思ってるんでしょ!

 そんなことない?ホント?

 えっ……可愛いですって――やだ、顔紅くしてなに言ってるのよ。年上をからかうもんじゃないわよ。

 あぁあ――っ、そんなに謝らないで。怒ってないから。本当に怒ってないから。

 冗談よ、冗談。お客さんがあんまりにも初々しいから、つい構ってみたくなっただけ。

 可愛いって言われて、嬉しくない女子なんていないわよ。うん、本当よ。憶えておいて。


 えっ?そう、女のひと苦手なの――地元にいた時は、クラスの女子と話をしたことも無い――そうかぁ、それはちょっと寂しかったね。

 こんなに話したの――あたしが初めて?

 あら、それなんか嬉しいかも。お客さんの初めて……ひとつもらっちゃった感じかな。それ、あたしみたいな女でいいのかな――うふふ。


 お客さん、なかなかのイケメンじゃない。ホントよ、ホント。ちょっと俯くと、ほらぁ誰だったかな、俳優の福士――

 いや、その髪の感じなんか、アイドルのほら、JMだっけ?みたいなぁ感じでぇ。地元のお友達、見る目が無かったのね。

 ん?東京に出てきて、ファッション誌よんで勉強したの?

 偉いんだぁ。自分磨きしっかりできてるんだね。あたし、そういう男子好きだな。

 えっ?あたしが時計を気にしてた?

 ごめんなさい。大丈夫、大丈夫。慌てなくても、ゆっくりとどうしたいか決めてくれればいいの。あたしは、お客さんが一番喜ぶものを提供するだけなんだから……


 優しい?あたしが?

 そんなことない。これがあたしの仕事……これしか生きる術を知らないだけ――

 んっ?寂し――そう?

 お客さん、優しいんだぁ――ありがとう。でも、大丈夫。そんなことない。

 えっ?

 あたしとお客さんは、今日初めて会ったんだから――ね、そんなこと気にしなくていいの。

 そんな事より、どうしたいか決まった?

 まだ?いいのよ、謝らないで――安くないんだから、そう簡単には決められないよね。それにお客さん、学生さんでしょ?


 今年の四月から、大学に?

 凄いなぁ――大学生なんだ。

 あたしなんて、学校辞めちゃったから……

 ねぇ、地元はどこから来たの?

 ――鳥取?遠いね。

 鳥取と言えば、鳥取砂丘かぁ――月のぉ、砂漠ぉ――遥々とぉ――ごめんなさい。つい歌っちゃった。懐かしくて。

 あたし?あたしの地元も鳥取なのか?

 全然。あたし地元、茨城だから。


 そっか、じゃあ、仕送りもらって、バイト?そうだよね。

 それなら尚更、お金――大事にしなきゃね。


 えっ?そもそも、こんな店に来ること自体が初めてだから、勝手が分からなくて、緊張してるの?

 そっかぁ――地元には無かったかぁ。仕方ないよね。


 大丈夫だから、肩の力抜いてリラックスして。

 なにも怖くないよ。安心して。

 もちろん、恐いオニイサンも出てこないから安心して、もっと雰囲気から楽しめばいいんだよ。

 そんなこと言われても、何もかもが初めてで分からない?

 そっか、お客さん初めて何だもんね――分かった。最初があたしなんかじゃ、いい思い出にしてあげられるか分からないけど、任せて。

 そう、これも何かの運命だよ。全部あたしに任せて。

 お客さんに、最高の初めての――味あわせてあげるから。

 だから、そんな困った顔しないで。大丈夫。


 都会に出てきて、今までの自分から卒業したいから、ウチに来たんでしょ?

 大丈夫。絶対に後悔なんてさせない。最高のサービスで、満足させてあげるから。

 都会の大学に入って、彼女の一人や二人ほしいんでしょ?

 その時に、恥をかかないように、あたしがちゃんと教えてア・ゲ・ルから。

 お客さんは、ただ本能の命ずるままに、自分が一番欲するものを示してくれればいいの。後は全部あたしが導いてあげるから――


 ねぇ、あたしを信じて。怖がらないで、肩の力を抜いて――

 どこ?どれがいいの?

 

 慌てないで――

 そう、ゆっくりと――

 優しくね――白くて柔らかで、優しいスイートな――


 そう、それがいいのね。

 分かった。

 甘くされるのが好きなのね。

 それなら、これは?

 良かった。喜んでもらえて。


 そんなに好きなら――これ――甘く蕩けるような――

 ねぇ、良いでしょ。


 もっと、いけるの?

 分かってきたじゃない――それなら……あっ、そうくるの?


 本当に初めて?

 こんなの――凄い。


 サイズは――一番大きい!

 本当に?

 信じられない――あたし……無理かもぉ――

 でも、いいの。大丈夫。お客さんがいいのなら――頑張るから。


 えぇっ?

 そんな――こんなことまで……あっ――

 お客さん、本当にはじめてなの――あたし、こんなにすごいの初めて――

 初めてだから、思ったことを全部したい?

 そう……そうよね。分かった、お客さんに最高の初めてをプレゼントしたいって言ったのあたしだもんね。

 最後まで付き合う。

 だから一緒に、最高の初めてにしようよ。

 うん。それ――それもいい。とてもセンスあると思う。


 お客さん、凄すぎる。

 えっ?もう充分?

 満足できそうだ?

 だめよ。ここまで来たらあたしが満足できない。


 これ――あたしからの特別サービス。

 この、とろりとした感触と香り――どう、良いでしょ。直ぐにでもしゃぶりつきたくなる?

 だめよ、ダメ。落ち着いて。

 この甘いはちみつ――これを使って、お客さんを恍惚の幸せに導いてあげるから。絶対満足すると思う。


 えっ?どうしてそこまでしてくれるのか?


 ――また、来てほしいから。

 うん。お客さんみたいな人、初めて。

 ――また来てくれたら……嬉しいな。




 

 はい、それではご注文を繰り返します。


「抹茶クリームキャラメルフラペチーノ・カフェゼリーイン。ダークモカチョコチップソース増々。トッピングにストロベリーソース&オレンジシロップ。クリームを鬼盛三倍かけ豆乳クリームダブルブレンドつぶあん白玉添え」のトリプルラージサイズ。でお間違え無いですね。


 そしてわたしからのサービスで、コーヒーハニーをトッピングさせていただきます。

 お会計は、二千九百八十円になります。

 こちらレシートをお持ちになって、紫色のランプの下でお待ちください。ありがとうございました。 


 こんなに凄いの注文されたお客さん初めてです。

 またのご来店をお待ちしてます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 吹いた(笑)
[良い点] 予想を裏切らない結末にほっとしました。 [一言] そして便乗 「あなたのその……長くて黒くてかたくて逞しいソレ、どう扱ったらいいか分からないわ。……口に咥えればイイの? ちょっと怖いけ…
2016/06/30 08:54 退会済み
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