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 雛鳥が育って自分の手を離れるとき、親鳥はどんな気持ちなのだろう。



 窓から鳥が羽ばたいていく姿を眺めながら、心の中で呟く。


「ミリアリア」

「はい、お父様」


 ミリアリア・オーフェン17歳。

 栗色のウェーブがかった髪は綺麗にハーフアップされていて、顔には彼女の魅力が一番表れるぐらいにうすく化粧が施されている。しなやかな体にちょっとよそ行きな膝丈のお洒落なドレスをまとい、腕にはバスケットをかけている。


 渋みと凄みの増したクリフに名前を呼ばれ、翠色の大きな瞳にその姿を映した。


「ついにテオドール殿下の卒業が近くなってきてしまったよ……」


 あら。以前にも似たようなことがあったような。

 不敬にも近いことを言いながら頭を抱える父の姿に既視感を覚えながら、ミリアリアは軽く相槌を打つ。


「無事卒業したら、結婚ですね」

「嫌だあああ」


 嫌と言われても、こればっかりは仕方ない。特にいい女性(ヒト)を見つけることもなく、今もなお関係は解消されないまま結婚間近まで来てしまったのだから。


「せめて昔のままならまだ可愛いげがあったのに……」


 それには少し同意する。

 今日はちょうど会う予定があったので、ミリアリアは親馬鹿を発揮する父を軽やかに無視して挨拶だけすると、颯爽と王城へ向かった。








 可愛いげのなくなったミリアリアの婚約者の現在。


「うまい」


 テオドール殿下、18歳。政務に少しずつ関わりながら、見聞を広める目的で全階級に開かれている学園に通っている。

 もぐもぐとミリアリアが作って持ってきたマフィンを頬張りながら、その視線は手元の本に落ちていた。


「行儀が悪いわよ、テオ」

「ああ……ごめん。つい」


 たしなめれば、素直に本をテーブルの上に置く。その本がなんなのかを確認して、ミリアリアは困ったように苦笑した。


 他国語の教材だ。前は違う国の言葉を勉強していたのに、もう他のところをやっている。凄いけれど、無理していないのかしら?


 そんな心配をして上目で顔色を伺ってみるが、どう見ても健康で特に悩みごともなく幸せそうにマフィンを食べていて、無用のようだと頭を振った。


 テオドールが王子として頭角を表すのはあっという間だった。


 やんちゃっ子でよく注意されていたのが嘘のように落ち着いた物腰になり、真面目に勉強に取り組みすぐさま吸収。どんどんとレベルの高い物へ手を伸ばしていく。

 武術面ではクリフに特別にしごかれたこともあって、同じ年頃の子には負けないぐらいに上達していった。

 かといって天狗になることもなく、先程のように注意すればすぐに自分の非を認めるぐらいには素直さもしっかり残っている。

 貴族から一般階級様々な人が入り乱れる学園では、身分に関係なく交流を深めていると評判。


 テオドールは、まさに国民が求めるような善き王子になりつつあった。


 ……私も頑張らなくては。テオといると、叱咤される気分になる。

 当の本人からそんなことを言われたことはないが、努力する姿を見ていつもミリアリアは勝手に意気込んでいる。


「次はスコーンがいい」

「スコーンね、分かったわ」

「甘くしろよ?」


 そんな彼が男として隠したいぐらいに極度の甘党なのは多分、一時期お菓子作りにはまったミリアリアがたくさん作って食べさせていたのが原因だろうと、顎に手をあてて思案するのだった。


 お菓子を食べ終わっても、テオドールはもう本に手を伸ばすことはなかった。


 ミリアリアとまっすぐ向かい合っているその顔は、予想していた以上に見目麗しく育った。

 柔らかった目元はキリリと引き締まって、力強い印象を受ける。その目で見つめられたら……とお城の侍女が数人で集まって頬を上気させながら話しているのを聞いたことがある。


「なに?」

「テオは子どものときから格好良かったけど、益々良くなったなあと思って」

「なっ……」


 じっと見つめていれば怪訝な顔をされて、ミリアリアは正直に思ったことを伝えた。別に以前も格好いいと言ったことはあるし、誰もが思う事実だから、それはミリアリアにとって大したことではない。

 しかし、テオドールは目を見開いて絶句すると、微かに耳を赤く染め上げた。


「あら、言われ慣れているでしょう?

むしろ昔は自分から聞いてきたぐらいなのに」


 その反応におかしそうにクスクス笑い声をあげるミリアリアに、恨めしそうな視線が送られる。


「いつの話をしてるんだ」

「いつだったかしら。八年前?」

「そんな前と比べるなよ……」


 うーん、私にとってはこの八年はあっというまだったから、言うほど前には感じなかったのだけれど。


 元々精神年齢がすでに成熟していたミリアリアにとってその八年は、テオドールが心体ともに成長していくのを見守るばかりで、自分は身体のみが変わる何もない日々だった。

 実際、ミリアリアから見てもテオドールは思春期と呼ばれる時期を境に随分変わったように感じるが、自分がなにか変わったようには思えなかった。


 これが同じ精神年齢の子どもだったら、一緒に育って同じくらい月日を重ねたような一体感が二人の間には生まれていたことだろうが。


「……ミアも、綺麗になった」

「まあ。テオ殿下に言われるだなんて、恐れ多いですわ」

「茶化すな、本気で言ってるんだ」

「ふふふ。ありがとう、テオは優しい人ね」


 少しは嬉しそうに照れたらどうなんだ。

 テオドールの然り気無く狙った褒め言葉は、ミリアリアを少しも動揺させることなく軽く流されてどこかへ消えうせた。


「大体、優しいって?」

「優しいでしょう。婚約者を気遣って褒めてくれるのだもの」

「本気という言葉の意味を知っているか」

「まあ、馬鹿にしているの?」


 話にならない。根本的に考え方が違っている。

 テオドールは自分が本気だと言っている言葉を気遣いだと言って相手にしないミリアリアに、不服そうに眉を寄せた。


 一方、ミリアリアもぷうと頬を膨らませて、怒る姿勢を見せる。

 王妃になる可能性があるからには完璧な淑女を目指しているミリアリアがそんな子どものような可愛らしい仕草をするのは、気を許した人間の前だけだ。


「分かった。俺が悪かったよ。馬鹿にしすぎた」


 テオドールはそれを知っていたので、あっさりと白旗をあげた。その代わり、どうせ言っても同じように流されると分かっているので、心の中でやっぱり可愛いと褒めちぎることにした。

 心内で誰をどのように可愛がろうが、それは本人の自由であるというのがテオドールの考えである。


「テオってこの顔に弱いわよね」

「確信犯か!」


 即入った突っ込みに、ミリアリアは愉快そうにクスクスと小さく笑い声を上げる。テオドールはうまく乗せられて突っ込みまでしてしまったことにきまりが悪そうに、眉間にしわを寄せてため息を吐いた。

 それから、空気を変えるべく咳払いをする。


「あー、それよりも」

「なあに?」

「来月、剣術大会があるんだけど」


 あら。もうそんな時期ね。今年はどこまで行けるのかしら。

 ミリアリアは今までのテオドールの勇姿を思い出しながら、ゆっくりと頷いた。


 一年に一回、騎士団で腕試しとして剣術大会が行われる。トーナメント方式で強者を決めるのだが、毎年テオドールは参加し、流石に熟練者には勝てずとも腕を磨き徐々に順位を上げていっている。


「見に来いよ」

「もちろん。応援するわ」

「俺をだぞ」

「でもお父様もお兄様もいるわ」

「…………」


 探るようにミリアリアの目を見たあと、その目を反らしてむっつりと口をつぐんだテオドールに、疑問を浮かべる。


 私が他の誰かを応援すると思っているのかしら。身内以外で?いったい誰のことを?

 ……まさか、ユーリ?たしかに、八年前のことでテオは私とユーリが何らかの関係があったということは気付いているはずだわ。でも、なんで今さら?


 あれからユーリのことには徹底的に無関心を貫いている。特にテオの前では。婚約者として、不義があるなどと思われたくない。

 だから今までは何も言われなかったのに、どうして今になって……


「お父様かお兄様と当たったときは、テオを応援するわね」


 理由が思い当たらなかったミリアリアは、分からないふりをすることにした。ユーリであろうと誰だろうと、テオドール以外にそんな人は絶対におらず、自分はテオドールだけなのだと言外に主張するために。


 意識して穏やかな笑みを浮かべ、愛しい人を見るようにテオドールを見つめる。

 テオドールはその視線を受けて落ち着かなそうにそわりと身動ぎすると、一瞬間を置いて堪えきれないように嬉しそうに破顔した。


「誰と当たっても、俺を応援しろよ」

「ふふふ、約束ね」


 何に関しても自分が一番なのをミリアリアに求めていた幼い頃を思い出して、懐かしい気分になる。

 でも、テオが親離れならぬ私離れをするのは、いつになるのやら。このまま恋も知らないまま結婚してしまって不満はないのかしら……?


 未だミリアリアを慕ってくれているように思えるテオドールに、ミリアリアは鈍い頭で見当違いなことを考えながら、首を傾げたのだった。



 その後、二人は庭園に出た。天気がいい日は外に出て散歩をよくしている。その光景を目にする者は多く、安定した仲、もとい熟年夫婦のような雰囲気を醸す二人は、密かに有名だった。


「そういえば東国との同盟は今どんな状況なの?」

「うまく行きそうだと報告がきてた」

「まあ!良かったわ。あそこの技術はぜひ取り入れたいものね」


 侍女たちから遠巻きに温かな視線を送られているなど露知らず、ミリアリアとテオドールは甘さの欠片もない外交の話を交わしていた。


「たしか外交官の方、女性なのよね?」

「ああ。メルサ外交官だな」


 ……メルサ?

 テオドールから飛び出した名前に、なにか引っ掛かりのようなものを感じて、ミリアリアは思わず足を止めた。先に進んだテオドールが、目を丸めてミリアリアを振り返る。


「どうした?」

「いえ……聞いたことがあるような気がして」

「女性の官僚は珍しいから、どこかで聞いたんじゃないか?」

「そうなのかしら……」


 視線を落とし、頬に手をあてて考え込む。

 なんだかスッキリしない。もっと、全然別のところで聞いた気がする。それが思い出せない。


「うーん……」


 眉を潜めて立ち止まったままのミリアリアに、テオドールが痺れを切らした。


「まあ、特に俺達に関係はないだろう?行こう」


 頬にあった手をとり、問答無用でぐいぐいと引っ張って歩き出す。


 ……そうね。あまり覚えていないということはきっと、私達に関係なくて大したことじゃないのね。

 考えても答えは出そうになかったので諦めたミリアリアは、そう捉えて頭の片隅にやると、繋がれている手に意識を移した。


 手を繋ぐのは久しぶりだわ。成長するにつれて少しずつスキンシップが減ってきて、ダンスのときぐらいになっていたから。


「大きくなったのね」


 しみじみと呟くと、意味を捉え損ねたようで不思議そうにテオドールはミリアリアを見た。ぶんぶんと繋いでいる手を振って答えてみる。


「……ああ」

「固くなったし」

「剣ダコが出来たからな」

「前は私より少し大きいぐらいで柔らかかったのにね」


 昔のことを思い出しながらクスッと笑う。また、いつの話をしてるなんて凄まれるのかしら。そんな予想をしていたけれど。


「ミアの手は小さいな。それから、細いし白い。綺麗な手をしてる」


 それに反して、テオドールは嬉しそうに手を目線まで持ってきて確認すると、指を滑らせて絡めるように握り直した。端整な顔に仄かに柔らかい笑みまで浮かべている。


「…………」


 不意打ちだ。たかが手を褒めながら、そんな愛しいものを見るような目で見ないでほしい。

 幼いときから気になっていたけれど、どこで女性をときめかせるような技を覚えてきているのか、不思議だわ。


 恋人同士のように手を絡めていることに少し恥ずかしさが沸き上がってきて、ミリアリアは手を引いた。

 しかしテオドールがそれを許すはずもなく、逆に力を強められてしまったので、もうどうにでもなれと平常心を心掛けるしかなかった。


「なあ、ミア」

「はい」

「もし俺が……」


 真剣な声色でそこまで言って、なぜか口を結び自分を見つめるテオドールを、ミリアリアもまっすぐ見つめ返す。


「剣術大会で」

「大会で?」

「…………」


 テオドールはまた黙ってしまう。こんな彼は珍しくて、ミリアリアは心配気に顔を覗き込んだ。テオドールがその近さにわずかに身を引き、目を泳がせた。


「どうしたの?テオ」

「いや、やっぱりなんでもない。気にしなくていい」

「え?いいの?」


 てっきり勝ったらご褒美、とかなんとか言うのかと思ったのに。でもそれだったら普段から言っているから、躊躇う理由もないわ。


 本人がいいと言っているのなら、追求しない方がいいのだろう。そう判断したミリアリアは、それ以上何も言うことはなく、考え事をしているらしいテオドールとそれっきり黙ったまま散歩を終えた。









「もうすぐ剣術大会だな」


 夜、家族揃って夕食をとっていると、ミリアリアにとって本日二度目の話題がエディの口から上げられた。


「楽しみだなあ。殿下は去年からどれくらい腕を上げたのかな」

「あら、お兄様はテオのことを気にしてくださってるのね」

「もちろん。ミアの婚約者だからね」


 相も変わらずエディはミリアリアを溺愛していた。ミリアリアは理由がそれだと分かって苦笑を浮かべる。


 お兄様、今でもなにかあれば自分が養うから気にしなくていいなんて言っているけど……可憐な婚約者様がいるのだから、私よりもその方との関係を大事にしてほしいわ。

 妹の心配など分からないエディは、やる気に満ちた顔で拳を握った。


「俺に勝たないうちはミアは渡さないよ」

「そんなことを言ったら、私を倒すまでだ」

「お父様!」


 それは無茶だわ。お父様は団長なのよ。お父様だってそんな簡単に負けてしまったら顔が立たないわ。

 ちなみにクリフは毎年の優勝者である。クリフが飛び抜けた実力で団長に名乗りを上げて以来、一位の座は不動のままである。


 ミリアリアが困り顔でクリフを見ると、クリフは冗談だと一笑し、真剣な顔付きに切り替えた。


「ミア、本当にいいのかい?このまま結婚してしまっても。破棄したければいくらでも出来るんだよ」

「お父様、無理はいけません。それに、それを聞くべきなのは私ではなくテオの方です」

「ん?どうして殿下?」


 不思議そうなクリフと同じ疑問を持ったようで、エディは目を丸め、シェラまでおっとりと首を傾げた。


「テオは結局恋を知らないままですもの……」


 恋なんて、知らない方がいいのかもしれない。私は辛い思いをしたくないから、二度とするつもりはない。でも、テオはテオだ。私の考え方には当てはめられない、


 それにこの婚約は貴族のパワーバランスを考えたガチガチの政略結婚なんかではなく、ただやんちゃ王子のテオに私が最適だったために選ばれただけのものだ。

 あちらから求められればいくらでも婚約破棄は出来る。つまりテオが恋したとき、よっぽどの相手でなければ、叶わぬものにはならないはず。

 もう立派な殿下になったのに、未だに私という婚約者に縛られているのは可哀想だわ。


「……いや、うん、殿下はいいんじゃないかな」

「俺もそう思うよ」

「ミアってば、いつもテオドール殿下の気持ちが第一なのねえ」


 しかし、そんなミリアリアの考えにやや否定的なそれぞれの反応を受けて、今度はミリアリアがきょとりと目を瞬かせて三人の顔を見回した。

 どうしてテオはいいのかしら。それから、お母様。


「私はテオの婚約者ですもの。婚約者として、テオのことを一番に考えるのが大事だと思いますわ」

「うーん、なにか違うような」


 いや、間違いなく違うだろう。

 顎に手を当てて呟いたエディにクリフは呆れた視線を投げかけ、それからミリアリアを横目で見た。そして何か言おうか言うまいかと口を開いたり閉じたりを繰り返す。


「なんであろうと、クリフ様は望めば破棄も出来ると言っているのだもの。ミアの人生なのだから、ミアの思うようにしなさい」

「はい、お母様」


 そんなことをしているうちに、全てを見通しているような穏やかな笑みを浮かべたシェラが締め括ってしまった。

 この話をわざわざ掘り返すのは色々と難がありそうで、クリフは苦々しくため息をついた。そんなクリフに気付かずミリアリアとエディは元の話題に戻って会話を続けた。


「ミア、もちろん大会には応援に来てくれるね?」

「ええ。テオにも今日言われたのよ」

「そりゃ、そうだろうなあ。公開日のことは何か聞いたかい?」


 ミリアリアは、ゆるゆると首を横に振った。

 テオは大会のことで頭がいっばいで、きっとその日のことは頭から抜けているわ。


 騎士団の訓練は基本的に誰でも見学できる。しかしそれには届け物や王子同伴などの例外を覗いて、基本的に少し手間のいる申請が必要で、あまり見学者は多くない。


 だから剣術大会の時期に一日だけ、申請がいらない公開日を作るのだ。

 その目的は、団員の士気を高めたり、国を守る騎士団の人気、信用を高め、それによって次世代の有能な人材を集めやすくするなど、様々である。


 大会前で訓練所に入り浸るテオドールに呼ばれることもあって、ミリアリアももれなく毎年その日には行っていたのだが。


「今年はテオも気にしていないみたいだし、どうしましょう」

「カレンが公開日にミアと一緒に行きたいと言っていたよ」

「まあ。そうよね、カレン様はお兄様と婚約してから初めてだものね。それなら行こうかしら」

「俺の可愛い婚約者をよろしく頼むよ、ミリアリアお姉様」


 今年は兄の婚約者同伴になりそうだ。ミリアリアは喜んで、と微笑んだ。


 エディとその婚約者、カレンの婚約が決まったのは、約一年前のことだ。カレンはとても可愛らしい15歳の伯爵令嬢で、社交界デビューと同時に見初めたエディから結婚を申し込み、瞬く間に話がまとまったのだ。


 年下のカレンはミリアリアを頼ることも多く、将来の義姉妹として良好な関係を築いている。


「それにしても、お兄様にそんな風に呼ばれるのは恥ずかしいわ」


 ミリアリアお姉様、というのは、総じて貴族令嬢がミリアリアを呼ぶときの尊称だ。

 厳しい王妃教育をしっかりとやり遂げ、いつも凛としていて姿形から振る舞いまでまさに淑女の鑑である上に、幼いときから変わらず王子と安定した婚約関係であることも相まって、令嬢たちが密かに呼び出したものだった。


 ミリアリアは自分はそんな風に呼ばれるほどのものでないといつも照れて否定をしていたのだが、結局定着してしまった。


「いいことじゃないか、慕われていて。カレンもミリアリアお姉様のようになりたいと言っていたよ」

「私の義姉様になるカレン様にそう呼ばれるのも変な感じだわ」

「本当にね」


 二人しておかしそうにクスクスと笑う。食事をしながら静かに会話を聞いていた両親は、微笑ましいそれに始終穏やかな雰囲気を醸し出していた。





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