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通り雨  作者: 竹本 周子
本編
5/21

天文部入部

「1年1組の瀬能宗太郎です。剣道部との掛け持ちになりますがよろしくお願いします」

 宗太郎は目の前に座る5人の天文部員の前で簡単な自己紹介とあいさつをして、深々と一礼をする。5人から温かい歓迎を受けた。

 もちろん5人の中には、同じクラスで宗太郎を天文部に勧誘した本人である高宮理子もいる。


 ここは天文部が活動する第二実験室。

 今日の剣道部の練習が終わってからで構わないから、第二実験室に顔を出してほしいと高宮理子に言われていた。宗太郎は練習が終わると、黙々と道場を掃除して、超特急で仕度を済ませた。そして、天文部の活動するこの第二実験室に急ぎ駆けつけた。

 天文部の総員がすでに集まっており、宗太郎の入部を首を長くして待っていたという。


 宗太郎の自己紹介を聞き終わると、眼鏡をかけた知的美女がすっと椅子から立ち上がる。

 「えー、私がこの天文部の部長、3年の天野ひかるです」

 眼鏡美女の天野部長は宗太郎に部員を紹介していく。

「このメガネ&カメラ男子は2年の結城岳史ゆうきたけふみ、天文写真が得意分野」

「結城です。ただのカメラおたくです。星空の写真を撮るのに嵌っています」

 照れたように頭を掻く結城は小柄で宗太郎よりも頭一つ分背が低い。後頭部の寝癖が印象的で笑うと目がなくなる、少年のような先輩だった。

「で、こっちが1年の斉藤美野里さいとうみのり。この子も天体写真が趣味。結城と写真展に応募しているよきライバルかな」

「斉藤です。1年3組です。よろしくね」

 にっこりと笑う斉藤はショートボブで結城よりもさらに小柄な女子。控えめなのか、照れ屋なのか宗太郎と目を合わせようとしない。

「んで、こっちが同じく1年の沢村拓斗。バスケ部と掛け持ちしてくれてるから、掛け持ち活動するうえで瀬能君のよき相談相手になるではないかな」

「沢村です。ようこそ天文部へ」

 爽やかに笑って握手を求めてくる沢村は、バスケ部らしい長身に軽く茶色に染めた髪。さぞかし女子にモテるだろうと想像に難くない。握手をしながら、宗太郎は自分の同じにおいを感じとった。

(もしや---沢村は・・・)


「そして、高宮理子。同じクラスだし、紹介はいらないかな?この子は天体観測とプラネタリウム好き」

「あらためまして、高宮です。入部してくれてありがとう」

 小さくお辞儀をする高宮は少し照れたように笑う。笑うと口元に笑窪が出来るのも可愛い。

「こっちこそ、誘ってくれてありがとう---部長をはじめ、結城さん、斉藤さん、沢村君、そして高宮---楽しくやっていきたいと思います。よろしくお願いします」



 天文部入部のきっかけは高宮理子がこぼした一言。

「瀬能君みたいな人が天文部に入ってくれたらな」と言う、その一言で宗太郎は天文部入部を決めた。


 なぜ、高宮理子の一言で宗太郎が天文部入部という行動に出たかいうと、宗太郎にとって高宮理子は片想いの人だから。高宮理子本人は宗太郎の想いなど知る由もない。

 高宮理子に意識してもらえるように、話しかけたり、傍にいたりするのだが高宮理子に通じる気配がまったくない。日直の仕事を一緒にしたときなどは若干嫌われたかもと危惧することもあったほど。

 そんな宗太郎の想いに気が付いたのは高宮理子と仲良くしている上月梓だ。おそらく、布留川玲子も宗太郎の気持ちに薄々勘付いているように思われる。しかし、当の本人は全くもって気が付かない様子。


 上月梓曰く、高宮理子の恋愛センサーは稼働している様子がないとか。よって、遠まわしな表現はご法度。わかりやすくアピールすることが重要だと、上月梓に肩を叩かれた。

「理子が瀬能のことが好きっていうなら、100%応援するけど、今は50%だけ応援してあげる」

 これが上月梓が宗太郎にくれたエールだ。ちなみに、高宮理子がほかの男子に心奪われた時は応援できないと言われている。

 つまり、上月梓は高宮理子が「今はフリーである」と暗に伝えてくれたわけである。


 陰の協力者である上月梓のおかげで、安心して宗太郎は高宮理子にアピールすることが出来ている。この想いが届くのはいつになることやらと思いつつ、気長に頑張るつもりでいた。


 そんな宗太郎に幸運が訪れた。

 先日の親睦会では高宮理子と同じチームになり、さらに練習ペアを組めるという幸せすぎる状況。キャッチボールしながら話していくうちに、少しずつ二人は打ち解けたように思えた。そして、少しではあるが話しながら高宮理子の情報が本人の口から聞けた。

 誕生日は3月3日、ひな祭りの日。家族構成は、両親に兄2人、彼女は末っ子。食べることが趣味で、最近は趣味が高じて料理に凝っている。肩甲骨まで伸びた黒い髪は、生まれて初めて長い髪にチャレンジしているらしい。確かに初めて出会った時はショートカットだった。

 

 幸運は続く。親睦会の帰りは奇跡が起きたのか、二人きりで帰ることになった。バスで隣に座った時にはバスが揺れるたびに高宮理子の肩が触れ、剣道の試合に臨む何倍もの緊張が走り、破裂しそうなほど心臓の鼓動が早まった。隣に座る高宮理子も肩が触れるたびに、体を固くしていた。

 妙に甘酸っぱい雰囲気が漂ったのだが、これは宗太郎の片想いのせいだろう。

 さらに、帰りの電車の中では、いつの間にか眠ってしまった高宮理子が宗太郎の肩にその頭を預けた。宗太郎の肩に体中の神経が集中し、無防備な寝顔を見るにつけ、宗太郎が赤面していたなんて高宮理子は気づきもしないだろう。

 最大の幸運は高宮理子の連絡先を手に入れられたこと。天文部のことを聞きたいと称して、入部するまで何度かメールや電話を交わすたびに高宮理子との距離が少しずつ縮まっていくような気がしていた。


 しかし、天文部に入部して同じにおいを感じたのが、沢村拓斗。

 顔よし、姿よし、運動よし、無駄に爽やか。県下でも1位2位を争う進学校に入学したのだから、勉強もできる。バスケ部に群がる女子の半数は沢村目当てと聞いたこともある。

 この沢村は、十中八九---高宮理子狙いで天文部に入部したと宗太郎は思う。高宮理子を見る目がほかの部員のそれとは違ったから。


「沢村と高宮さんは同じクラスだったよ」

 そう教えてくれたのは五十野巧いがのたくみ。高校に入ってから、同じクラスで剣道部所属と言うこともあったのか、妙に宗太郎と馬が合った五十野は、すぐに宗太郎の気持ちに気が付いたのだろう。ただし、五十野が宗太郎の気持ちを確かめてきたことはない。何となく見守ってくれている五十野の気持ちがありがたかった。

 高宮理子と同じ中学だったという、五十野は高宮理子の話を聞かせてくれた。

「でも、それ以上に接点はなかったんじゃないかなー。沢村はバスケ部、高宮さんは帰宅部だったしなぁ。それに沢村には彼女がいたし、同じ委員会でもなかった。二人が話している姿も印象にない」

 やはり高宮理子と同じクラスだった五十野は、自分の記憶の断片を探り出すように腕を組み思案顔である。

(俺の気にしすぎか---)

「しっかし、宗太郎が天文部に入るとは」

 ニヤッと意味ありげな笑みを浮かべる五十野に、宗太郎は苦笑するしかない。

「これでも、興味あるんだって」

「ふーん、でも、天文部って何しているの?」

 五十野は興味があるのかないのか、質問をぶつけてくる。


 天文部の主な活動は夏・冬休み中の合宿による天体観測と放課後の太陽黒点観測。国立天文台の「星空情報」をチェックして、流星群や彗星を観測する。あとは、文化祭の時の出し物をどうするか決めて、その準備。月に一度の星空観賞とプラネタリウム鑑賞。

 それ以外の時は放課後に集まって、星座を線でつないだり、少し話して帰るということでそこまでハードな部活ではないから、掛け持ちでも大丈夫なんだと天野部長はにっこりと笑顔を見せた。

「なんだか、精神統一するのによさそうな活動だね」

 俺も入っちゃおうかなとうそぶいて、五十野は宗太郎の肩をポンとたたく。

「宗太郎、頑張ろうな」

 そういう五十野は布留川玲子を熱い視線でみていることに、宗太郎は気が付いている。たぶん、五十野は宗太郎が気が付いていることを知っているが、これもお互いに確認したことはない。


「お互いに頑張らないとな---」

 宗太郎はニッと五十野に笑い返した。

最後まで読んでくださってありがとうございます。


誤字・脱字に気が付かれた方がいたらお知らせください。

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