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通り雨  作者: 竹本 周子
本編
4/21

親睦会2

「高宮って、きれいなフォームで投げるね」

軟式のボールがグローブに飛び込んで、パシンッとグローブがいい音を立てる。キャッチボールなど何年振りだろうか、と、理子は手元にあるボールを握った。

 野球の試合をするにあたり、練習の一環としてキャッチボールを瀬能と始めた理子。白球が瀬能と理子の間を行き来する。


「小さい頃、父と兄たちに鍛えられたから」

 そう言って、ボールを瀬能に投げ返す。

「へぇー。高宮って何人兄弟?」

 また理子のもとにボールが戻ってくる。

「3人兄妹、瀬能君は?」

「うちはなんと5人」

 キャッチボールをしながら、とつとつと二人で情報交換のような会話を交わす。瀬能は5人兄妹の上から2番目でお姉さんに頭が上がらないこと。おにぎりが大好きで好き具はたらこ。嫌いな食べ物は特にない。

 中学生のころから剣道を始めたのは、本当は小学生のころから剣道にあこがれていていたから。身長は中学二年の頃から急激に伸び始め、今では184cmもあることが悩みらしい。

 話を聞いてみると、普通の高校男子なんだと理子は思わず相好を崩す。


「高宮はなんで天文部?」

「星が好きだから、見てると癒されるの」

「それ、わかる。空を見上げると、無心になれるよな」

 瀬能が理子の発言に賛同する。

「うん。ああ、瀬能君みたいな人が天文部に来てくれないかな」

 天文部の危機を思って思わず、理子から言葉が漏れる。部として成立する部員5名ぎりぎりの部員数。

天文に興味がある人が少なくて勧誘すれどもなかなか部員が増えないことに頭を悩ませていた理子の想いが思わず口を衝いて出た。

「部員がいないの?」

「うん。残念ながら、5人しかいないんだ」

「大変だな。剣道部との掛け持ちでもいいなら・・・入部するんだけど」

 キャッチボールと並行する会話から思いもかけない申し出を受けた。理子は思わず、瀬能を凝視する。

「え?今、なんて言ったの?」

「掛け持ちでOKなら、入部希望って言ったの」

「ありがとう!嬉しい!あ、掛け持ちでも大丈夫だよ。掛け持ちしている部員が一人いるから」

 理子は感謝の気持ちを込めてボールを投げ返した。


 それから、バットの扱い方や野球のルールを聞いたりと、天文部の入部の話はなんとなく中途半端になってしまった。

 チーム対抗戦は、結局どのチームも野球部やソフト部の部員の活躍を未経験者がふいにするというお約束の展開で親睦会はお開きになった。親睦会の幹事たちが時間のある人たちが集まってファミレスでご飯を食べるから、理子も参加しないかと声をかけてきたが、理子は丁重にお断りをした。隣に立っていた玲子も帰る旨、幹事に伝えている。

「えっ、理子も玲子もファミレスに行かないの?ほとんどみんな参加するみたいだよ」

 梓がファミレスグループの輪から抜け出してきて、理子と玲子の手を取る。

「ごめん、今日は帰るね」

 理子は梓に頭を下げる。

「私も帰るわ。ご飯食べるところまで家に言ってきていないから。ごめんね、梓ちゃん」

 梓は仕方ないとばかりに肩をすくめた。


 理子は梓と玲子と別れると独りでバス停に向かって歩き出す。ちょうど、バスが来ており、滑り込むようにバスに乗車する。

「高宮も帰るのか?」

 背後から声をかけられて、理子は振り返る。

「瀬野君」

 バスに乗車してきた瀬能が小さく片手をあげて、「よっ」と挨拶している。なんでも、話が途中になっていた天文部の話を聞きたくて理子を探していたら、バスに乗り込んだので、瀬能もそのままバスに乗ったらしい。

 二人掛けの座席が空いていたので、瀬能と並んで座る。バスが揺れるたびに理子の肩が瀬能の腕にあたる。

(バスの二人掛けって思いのほか狭い---気まずい)

 隣に座る瀬能の体温を感じ、気まずさから理子は俯く。考えてみれば、男子と密着するような距離で座るなんて家族以外ではそうないことで、意識しすぎなのも分かっているが理子にはどうしようもない。

 駅に着くまで何となく2人ともしゃべることなく過ぎてしまった。


 電車の方向も同じようで、また肩を並べて座席に座る。

「高宮さ、ファミレスに行かなくてよかったの?」

 電車が発車して、少ししてから瀬能が2人の間に漂う気まずさと、沈黙を破った。

「うん。人見知りの私としては頑張ったから。ファミレスまで行ってたら、脳みそが破裂する」

 気まずい沈黙が破れたのと、電車の座席で少しゆったり座れたことで理子にも余裕ができた。

「はは、なんだそれ」

「瀬能君こそ行かなくてよかったの?」

「うん、別に。いつでも行けるだろう」

「そっか」

 そんな他愛のない話をしながら、理子はいつの間にかうつらうつらし始めた。



(ああ、そうか。私寝ちゃったのね---)

 瀬能が腕を組んで、理子に肩を貸してくれていたらしい。その上、自分が来ていたパーカーをクーラーの冷気で寒がっていた理子に羽織ってくれていた。

「目が覚めた?」

 優しく尋ねてくる瀬能の声に、理子は声もなく頷く。

(恥ずかしすぎる、無防備に寝てしまったなんて)

「あの、パーカー。掛けてくれたんだよね?ありがとう」

 肩から掛けられていたパーカーを理子は素早くたたんで瀬能に恭しく返す仕草をする。

「いや、寒いみたいだったから。まだ、寒いなら着てれば?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」

 またブレザーの様に返すのに困りそうなので、ありがたい申し出ではあったが丁重にお断りした。

「結局、天文部の件、聞きたかったんだけど・・・聞けそうにないね」

 瀬能の言葉に首をかしげると、電車のアナウンスが理子が降りるひとつ前の駅をアナウンスしていた。


「ごめんね、起こしてくれればよかったのに」

 天文部に入りたいという、奇特な人物を逃すわけにもいかず頭をかけた理子。なぜ、起きて天文部をアピールしなかったのかと後悔する。

「あー、そしたらアドレス教えてよ。メールで聞きたいこと聞くってことで」

 落ち込む理子の様子を見て、瀬能がメールでもいいと提案してくれた。二人は急いで連絡先の交換を行った。

「・・・っていうか、LINEでの連絡でもいい?」

 思い出したように瀬能が口を開く。

「うん、メールでもLINEでもどっちでもいいよ。長くなりそうなら電話でもいいから」

 急いで連絡事項を伝えると、理子の降車駅になり、急いで下車する。瀬能に小さく頭を下げて、理子は手を振る。瀬能も照れたように頭を下げて、片手をあげた。

 瀬能の姿が見えなくなるまで見送ると理子は家に足を向けた。


 理子は家に帰り、携帯画面を眺める。

(連絡先が一件増えたのは、親睦会のおかげかな)

 何気なく見ていると、瀬能からのメールを受信した。

 今日はお疲れ様と言うことと、天文部の入部条件について、そして、天文部の活動について電話して聞いていいかという内容であった。

 理子は早速返信する。

「今日はありがとうございました…と」

 天文部の入部条件は天体観測などに興味があること、活動について聞きたいことはいつでも電話してくださいと入力すると送信ボタンを押す。


 ほどなく、理子の携帯から着信音が鳴る。画面を見れば、瀬能からの着信を知らせている。急いで通話ボタンを押すと、電話の向こうから早速瀬能の声が聞こえる。

「もしもし?瀬能ですが」

「はい、高宮です」

「今、時間大丈夫?」

 気を使う瀬能に思わず笑いをかみ殺す。気にするなら電話しなければいいのにと思いながら、理子は瀬能の質問にできる限り丁寧に答えた。

 電話越しに聞こえる瀬能の声はいつもと違う人のように感じる。ホッとするような心地よいしゃべり方に思わず微笑んでしまう。

 電話を切る段になって1時間近く話し込んでいたことに驚いてしまった。こんな風に男子と長電話するのは初めてだ。

(意外と話しやすいんだな、瀬能君)

 瀬能と言う人を色眼鏡で見ていたのかなと理子は反省する。今日の親睦会で色んな人と話せたこと、瀬能の人となりが知れたことなど収穫が多かったと理子は思う。

 苦手なことでも体当たりしたら、瓢箪から駒で思いがけないことが起こることがある。参加することに及び腰になっていたけれど、今は親睦会に参加してよかったと理子は心から思った。

 


 ---本日の天気予報は曇り 予報は外れて、雲一つない快晴

ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字・脱字に気付かれた方はご連絡ください。


※なかなか、話が進まず苦しんでいます。

更新が滞りがちですが、ご寛恕くださいますよう

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