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通り雨  作者: 竹本 周子
宗太郎の独白(番外編)
19/21

宗太郎の独白4

---彼女に初めて触れたのは高校1年の梅雨の晴れ間


 カオスだ・・・眼前に手繰り広げられる惨劇に唖然としながら五十野は呟いた。まさに混沌カオスと言うのにふさわしい修羅場である。

 ショートホームルームでの出来事とは思えない惨状に宗太郎は目を覆いたくなる。


 クラスの親睦会を決めるのに、宗太郎他3名と共にテーマパークを一緒に回るグループを決めようとしている状況で何故掴み合いのけんかになるのだ、女子生徒同士が…

 女戦士アマゾネスのような戦闘能力と獰猛さを発揮したのが田中美沙と言う女。派手な装飾を施した爪はアイアンクローと言う凶器に他ならない。

 あんなのに引っ掻かれたら立ち直れないななどコメントしているのは飄々としている宮原。

 物静かな川名は窓の外の遠くの景色を見ることで現実逃避に成功した模様である。


 ショートホームルームは地獄絵図と化しており、喧嘩を遠巻きに眺めている生徒たちは存在すら感じさせない。宗太郎の後ろに座る理子もまた頬杖をついてつまらなそうにこの顛末を見届けていた。

 結局、爽やかにスポーツで親睦を深めましょうという、先程まで最前線で喧嘩をしていた田中美沙が上月梓の健全なる提案を受け入れることによって、喧嘩は終幕を迎えた。


 そして親睦会当日。宗太郎はまたも神に感謝することとなる。


 くじで決めたチームのメンバーの中に理子がおり、さらに田中美沙の妨害を乗り越え---かなり強引ではあったが---理子と練習ペアを組むという奇跡を引き寄せた。クラスの親睦はさることながら、理子とかなり会話を交わし、警戒心を解く理子の姿を目の当たりにすることができた親睦会は、宗太郎にとって大成功であった。


 今日の宗太郎の幸運はまだまだ続く。

 ファミレスでのご飯をお断りし、理子と一緒に家路を共にすることになった。それだけでも神様に手を合わせてお礼をしたい気持ちでいっぱいであったのに、理子が宗太郎に心を許してくれたのか、電車の中では宗太郎に体を預けて、転寝し始める奇跡。

 宗太郎の肩に理子の頭が乗せられて、宗太郎の心臓は一気に鼓動が早まった。彼女の寝顔を見ると、幼さが残る優しい顔つきで眠っている。

 長い睫毛が影を差し、小さく天を向いた鼻梁は愛らしい。桜色に染まる唇は少しだけ開き、白い歯が覗いている。

(可愛い…)

 思わず緩んだ顔を隠すように片手で口元を押さえる宗太郎。寝顔を見て赤面する姿は変態そのものだと、反省し、表情を引き締めるが、たぶん緩んでいるだろう。


 理子は見た目に対する評価が低いように思う、上月や布留川が人目を引く面立ちをしているからか、自分は引き立て役だといつかどこかで理子が話していたのを宗太郎は耳にしたことがある。

 しかし、理子も負けず劣らず---恋する欲目かもしれないが---整った顔立ちをしている。上月と布留川が目立つために、2人の陰に隠れているが・・・むしろ隠れていてほしいと宗太郎は思う。


 宗太郎が妄想に浸っていたが、体を震わせて二の腕をさすりながら眠る理子に気が付いて、宗太郎はそっと自分のパーカーを理子の肩にかけてやる。初夏の電車は空調のバランスが難しいのだろう、宗太郎には心地よい涼しい風でも、理子のような女子には少し寒いのだろう。

 宗太郎のパーカーが肩から掛けられると、理子は安心したような表情で眠りについている。宗太郎の手が理子の頬に触れても、理子は起きる気配がない。理子の頬はすべらかで柔らかく、温かかった。

(可愛すぎる…俺、変態すぎる…)

 こんな時は過ぎる時間はすごく早く感じるもので、気が付けば理子が降りる駅が目前に迫っていた。


 天文部に入るかもと言う話になっていたのを出汁に理子の電話番号とメールアドレスをゲットした宗太郎は天にも昇る気持ちで家路についた。

 家のリビングでため息をつきながら、理子を思い「好きが積もる」と呟くと、缶ビールを呑んでいた姉の美智子が不思議な生物を見るような目で宗太郎を見ながら「あんた、どこの乙女?」と突っ込む。

 女より男の方がロマンチストなんだよと言いたいが、姉に一言いうと百倍、いや千倍にもなって返ってくるので、黙ってやり過ごすほかない。


 自室に戻り、宗太郎はベッドにごろりと寝転がる。携帯の連絡先には「高宮理子」の文字が追加された。天文部のことをメールで聞こうかどうか悩み続けること数分。

 無難な内容のメールを送ると、理子から遠慮なくメールや電話をしていいと返信が来た。

(これは電話していいってことだな!)

 前向きに理子からの返信を解釈した宗太郎は早速電話をする。緊張して、宗太郎の心拍数は跳ね上がっているに違いない。


 受話器越しに聞こえる理子の声は優しく、宗太郎の恋の炎に燃料投下をする。今日のこと、天文部のことを話していたはずが気が付けば1時間以上会話を続けていた。

 最後に理子から「おやすみ」と言われて、電話を切った後はその言葉が宗太郎の頭の中を繰り返し流れていた。


 いい夢が見られそうだ・・・そう思っているうちに宗太郎は夢の世界に誘われていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

もう少しだけ、宗太郎の独白が続きます。楽しんでいただけたら幸いです。


誤字・脱字を見つけられた方はご連絡ください。

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