合宿4日目
「はい、今日はみんなで牧場で遊んでから帰ります。帰りは谷川先生の車に乗って学校まで帰るので、早めに野辺山を発ちます。以上質問はありますか?」
合宿最終日。部長曰く「親睦を深める」と言うことで、近くの牧場で動物と触れ合うことになった。お世話になった民宿を営むご夫婦にお礼の言葉を告げると、宿を後にする。
牧場に到着すると「谷川先生の車に11時半集合で各自自由行動」と告げられた。親睦を図るはずだが、まさかの各自自由行動発現に理子は思わず笑ってしまった。
天野部長と結城はすたすたと自分の行きたいところに歩きだす。取り残された1年生4人は互いに顔を見合わせて苦笑する。
「一緒に回りますか」
沢村は3人全員に声をかけると、何となく全員が賛同し4人でぞろぞろと牧場内を巡る。
ウサギ小屋にいるウサギにふれあい理子と美野里は「かわいい」を連発し、大いにはしゃぎ、馬が繋がれている厩舎ではそっと馬の鼻面や首を撫でてやる。美野里はおっかなびっくりの様子であったが、理子は馬が興奮していないのを確認すると首をポンポンと撫でてやる 瀬能も馬カッコいいと馬の額を撫でる。沢村はカメラを片手に3人の様子を写真に収めていた。
「牧場のソフトクリーム食べたい!」と、理子と美野里がソフトクリームを食べると、ベンチに座ってすでに天野部長がソフトクリームを堪能していた。瀬能と沢村は少し離れた売店につながれている犬とじゃれあっている。
夏休みということもあり家族連れや友人同士での姿が散見されるが、瀬能と沢村の見目がよいのか女性の視線を一身に浴びている。
「おお、あの二人声をかけられてるねぇ」
ソフトクリームを片手に天野部長が面白そうに瀬能と沢村の様子をうかがっている。
「カッコいいですからね、2人とも」
若干不機嫌な様子の美野里は部長と同じくソフトクリームを味わうことに専念している。
「2人ともカッコいいのか・・・なるほど」
「何その感想・・・」
理子の感想に天野部長が突っ込みを入れる。
「客観的に見て、カッコいいでしょう。3年女子の間でもあの2人は人気あるよ。何故天文部なんだと詰め寄られることもあるくらい。ところで高宮って相当面食い?」
「面食いじゃないですよ」
突然話を振られて理子は天野部長の言葉を思いっきり否定する。
「でも、あの2人がカッコいいって思わないんでしょ?誰がカッコいいのよ」
「あ、私も聞きたい。理子ちゃんのタイプって」
天野部長と美野里の舌鋒鋭い追及に理子はたじろぐ。
少し悩んでから、理子は正直に胸の内を明かす。
「カッコいいと思う人ですか・・・あんまりその考えたことなくって。むしろ男子が苦手だったので」
シュンと小さくなった理子に天野部長は理子に気の毒そうな視線をやって、理子の肩に手を置く。
「高宮も苦労してるんだ。でも、大丈夫。救いの神が訪れるから、そう遠くないうちにね。っていうか、訪れているか・・・」
ぶつぶつと独り言をいうと、意味ありげな笑みを浮かべた天野部長が美野里に同意を求める。
「私もそう思います。たぶん、部長と同じことを思っています、はい」
これまた意味深長な笑みを浮かべた美野里が部長の言葉に同意とばかりに大きく頷いている。
「ええ、部長も美野里ちゃんもなんですか?私にもわかるように・・・」
「ほほほ、たぶん高宮もちょこーっとは気が付いているんじゃないのかな。こっちが気が付くくらいだからねぇ、斉藤」
「はい、部長」
突然、天野部長と美野里の間に不思議なきずなが生まれたようにみえる理子は何となく疎外感を感じた。
「寂しい…教えてください。部長。美野里ちゃん」
「大丈夫だって、すぐにわかるからさ」
にっこりと満面の笑顔を浮かべる美野里に手を引かれるように牧場内を散策したが、何となく腑に落ちない理子であった。
野辺山での楽しい合宿もあっという間に終わり、帰路につくために天文部員たちは谷川顧問の車に乗り込む。
帰りの車内では助手席に天野部長、2シート目に結城と沢村、3シート目に美野里と瀬能、そして理子が座って帰ることになった。各々疲れていたのか、車が動き出して数分もしない間に寝息が聞こえてくる。理子もまた寝息に誘われるように睡魔にその身をゆだねた。
「高宮・・・高宮」
瀬能に肩をゆすられて目を覚ますと、高速のサービスエリアに到着していた。最後のトイレ休憩であると言われて、急いでトイレに急行する。
まったく肩をゆすられるまで目を覚まさないなんて、どんだけ深く眠っていたのだと反省していると美野里とお手洗いの鏡越しに目が合う。
「理子ちゃん!気持ちよく寝てたから、起こさないほうがいいかなって思ったんだけど・・・」
「うん、瀬能君に起こされた」
「瀬能君、理子ちゃんが起きないから焦ってたよ。さて、最後の休憩らしいから、なんか買っていこう」
美野里に誘われてサービスエリア内の売店で飲み物を購入した。
それから軽い渋滞に巻き込まれたものの、学校到着予定時間よりも1時間も早い17時に学校に到着した。天野部長から最後のお言葉をいただき、合宿は解散となった。
天野部長と瀬能と理子は谷川顧問の車から天体望遠鏡などの機材をおろし、片付けるために第二実験室に運ぶ。
結城と美野里は家族の方が迎えに来ていたため早々に学校を後にし、沢村はバスケ部が練習しているために体育館に向かっていった。
天野部長の指示に従い、機材を第二実験室の所定の場所に戻し終えると瀬能と理子は共に帰路につく。日が落ちて西の空が赤く染まり、瀬能と理子の頬は夕暮れ色に染まる。
最寄駅に向かいがなら、瀬能と理子は合宿であったあれこれを話しながらゆっくりと歩く。
電車に乗り込んだ後も、流星や星空がいかに綺麗だったかで盛り上がり、あっという間に理子が降車する駅になっていた。
あわてて荷物を掴んで降車する理子。まだ電車に乗っているだろう瀬能にお別れの挨拶をしようと振り返ると、同じく降車した瀬能が理子の背後に立っていた。
瀬能の降り立つ駅は隣の駅であるのにもかかわらず、なぜ降車しているのか・・・瀬能に尋ねようとしたその時、理子の手首をそっと瀬能が掴む。
「話があるんだ、高宮」
そういう瀬能の表情からはどんな話なのか読み取ることが出来ず、掴まれた手首の熱さに理子はただ緊張するしかなかった。
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