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通り雨  作者: 竹本 周子
本編
12/21

合宿2日目

 合宿2日目。


 宿泊している民宿にほど近い広場で、太陽の黒点観察をするために天体望遠鏡やと段ボールに白い紙を貼った投影版などを顧問の谷川先生の車から積み下ろす。

 黒点観察は雲のない条件の良い日に行うのだが、昨日に続き、好天に恵まれ、天文部員は全員満面の笑みを浮かべている。黒点観測は投影法と呼ばれる方法と今回は顧問の谷川先生が持つデジタルカメラでの観測、2種類で行うことになっていた。

 デジタルカメラでの観測は谷川先生の指導の下、結城と美野里が行うことになっていて、その2人を除いた部員4人で投影法による観測の準備を行う。

 太陽の観測はとても危険を伴うので天野部長の指示のもと、1年生3人が準備を進めていた。


「今日は天気がいいから・・・ペルセウス座流星群もよく見えるかもね。今年は月も沈んじゃうから、絶好の観察日和よ」

 天野部長は空を仰ぎながら、目を細めている。今夜半から明日未明にかけてが見ごろということもあり、部員の心が浮き立っている。

 天体望遠鏡をセットしながら、天野部長の呟きに空を見遣れば、瀬能の視線の先には雲一つない空。

「今日は黒点観測が終わったら、全員昼寝だからね」

 流星群の観察は真夜中からから明け方までの観察となるため、お昼過ぎまで黒点観察をし、昼食を取ったら午睡をするというのが合宿恒例のことらしい。

「なんだか、昼寝も義務って幸せだな」

 瀬能が白い歯を見せると、理子もまた笑いながら頷く。沢村もまた、バスケ部とは大違いだと口にする。

「ほらー。口を動かさないで、手を動かす!結城たちはもう撮影を始めてるよー。こっちもはじめましょ」

 天野部長がスケッチ用紙をセットすると、沢村が望遠鏡のレンズのピントを合わせていく。ピント合わせが終了したら、理子が時間を確認して黒点の位置を素早くスケッチして、清書をする。

「今年は黒点が少ないなぁ」

 天野部長がつぶやきながら、投影版に移った黒点を見つめている。天野部長の言葉に理子が投影版を覗き込むと、同じく覗き込んだ沢村と頭がぶつかる。

「ごめん!」

 沢村が頭を押さえながら、沢村にぶつかった理子の頭を撫でてくる。

「あわ、いや・・・こっちこそごめん。私、石頭だし、痛かったでしょ?」

 理子の頭を撫でる沢村の手を自然にのけるように、理子はそっと身を引く。

「いや、石頭度では俺も負けてないし。大丈夫だった?」

 そんな2人を眺めていた天野部長がプッと吹き出して、おなかを抱えている。

「あはは、2人して石頭を主張してどうする。青春するのはいいけど、観察終わってからにして」

「「すみませんでした」」

 声を揃えて部長に頭を下げる理子と沢村に、謝罪はいいからと、天野部長は笑いながら観察を続けるように指示した。



 黒点観察を終え、民宿に戻ってくると美野里がそっと理子の袖を引いてくる。昼食が終わったら話があると小声で美野里に言われて、理子は首を縦に振る。

 民宿のおかみさんが丹精込めた料理を平らげると、昼寝の準備と称して枕とタオルケットを各自の部屋に用意する。男子と女子の部屋が分かれており、女子の部屋は天野部長、美野里、そして理子が宿泊している6畳ほどのこじんまりした部屋である。

「斉藤も高宮も早く休みなさいよー」

 天野部長はそう言い残すと早々に寝床についてしまい、ものの1分もしないうちに寝息を立て始める。理子と美野里はすでに夢を結ぶ天野部長を起こさないようにと、そっと部屋を出て宿の庭に出て軽く散歩をする。


「それで話って?」

 言いにくそうにもじもじしていた美野里に話を促すようにと、理子が口を切った。

「私さ、今夜、沢村君に告白しようと思うの」

 意を決した美野里の目は恐れの中にも強い光を宿している。

「それでね、理子ちゃんは瀬能君を誘って、私と距離を保ったところで観察してほしいなって思って・・・」

 尻つぼみになる美野里の両肩に理子の手をかける。

「うんうん、2人きりの状況を作ればいいのね」

 二つ返事で了解する理子。美野里の恥じらいながらはにかむ様子はまさに恋する乙女そのものである。

「谷川先生と天野部長はどうするの?」

「それは結城先輩にお願いしちゃった・・・」

(なんと、残酷な・・・)

 口には出さないが、結城の想いを何となく知る理子は、好感を持っている女の子に恋愛相談を受けて、協力までする結城のけなげさに頭が下がる思いである。

「そっか。うまくいくといいね」

「きっと・・・駄目なんだろうけど、けじめをつけたいの。田中さんのこともあるし、前を見なくちゃって」

 眦にうっすらと涙を浮かべ微笑む美野里が気高く美しく感じた理子はその姿に息を呑んだ。

「理子ちゃんも瀬能君とうまくいくといいね!さ、昼寝、昼寝」

 両手を合わせて、理子の方に振りかえった美野里は破顔すると、民宿に向かって大きく足を踏み出した。美野里の思いがけない一言に動揺し、頬を染めた理子は美野里の後を追いかけるように歩く。

(なんで瀬能君?何で、動揺するの??なんで心臓が鳴るの!??)

 騒ぐ胸を押さえながら、理子は横になっても目が冴えて昼寝をすることが出来ずにいた。



 昼寝から起き出した部員たちは夕食を終えると流星群観察の準備に入る。顧問の車の中に積んである寝袋や毛布の他に、防寒対策に持ってきた上着を入れたリュックをトランクに詰めこんでいく。懐中電灯には赤いセロファンを張り付けて、天体観測に邪魔にならないようにと用意する。

 結城と美野里は自前のカメラと三脚を持ち込んでいた。


「楽しみだな、流星群」

 懐中電灯にセロファンを張り付けていた理子の横に腰を下ろした瀬能は、セロファンを貼っていない懐中電灯を手に取り、理子の見よう見まねでセロファンを貼り付ける。

「そうだね。すごく楽しみ。こんなに星がたくさん見えるし、さっきも星が流れたの見たよ」

 夏の空はあまり綺麗じゃないなんて、誰かが言っていたが、野辺山の空は星が瞬き天の川が綺麗に見え、夏の夜空はなんてきれいなんだと実感できる。

「すごいよな、星ってこんなに見えるんだよな。沢村も感動して、さっきからずっと空を眺めてるんだよ」

 瀬能が親指で示した先には、夜空を呆然と眺めて佇む沢村の姿がある。

「本当だ。みんなで来られてよかったよね」

「だな、これっていい思い出だ」

 目を見合わせて笑うと、あまりにも間近にある瀬能の顔に不意に恥ずかしさがこみ上げ、何となく視線を外してしまう。

(なんか・・・私、この頃変だ)

 

 沢村と話していても何ともないのに、瀬能と目が合うと照れくささを感じ、瀬能に触れられると胸がキュッとしまるような甘い痺れが訪れる。いまだかつてない症状に理子は戸惑いを隠せない。

「どうかした?」

 心配そうに理子を見つめる瀬能に、理子は思わず左右に首を振って何でもないアピールをする。

「なんでもない。ぼーっとしちゃった」

 笑ってごまかすと理子は懐中電灯を部員一人一人に手渡していく。


 谷川顧問の車に部員全員が乗り込むと、流星観察するための公園に向かって車が動き出す。部員の興奮が最高潮に達するころに公園に到着する。

 寝袋など観察に必要なものを車から降ろし終わると、天野部長が観測は各々目が届く範囲で好きな場所に寝ころんで観察してくださいと注意事項を述べる。お手洗いの場所などを告げると三々五々で公園内の芝生に散らばっていく。すでに、流星観察目的でやってきている家族連れなどがちらほら見受けられた。

 美野里もカメラや三脚の準備をしているのを横目で確認すると、沢村が何やら美野里を手伝っている。


 すぐ横に立っていた瀬能と目が合う。

(今がチャンスかな)

 昼寝前に美野里に依頼された事項を実行しなくてはいけないが、妙に緊張してしまい瀬能に声をかけられずにいた。

「あのさ」

 理子が口を開こうと思ったそのとき、瀬能が理子に声をかけてきた。

「なに?」

「一緒に見ない?流星・・・部長とかさっさと向こうに行っちゃったしさ」

 少し照れたように頭を掻く瀬能の言葉に理子は大きく頷く。

「そうだね、一緒に見よう。それにしても少し冷えるね。真夏じゃないみたい」

 先に誘ってくれた瀬能に感謝しながら寝袋や毛布などを抱えようとした理子から、瀬能が荷物を全部取り上げる。

「荷物を持つから、足下照らしてくれる?」

 瀬能の言葉に否やは受け付けない何かを感じて、理子はセロファン付の懐中電灯で瀬能の足下を照らす。


 部長たちとも美野里とも少し距離を取った場所でレジャーシートを敷いた理子たちは、毛布にくるまって寝転がる。懐中電灯の灯りを落とすと眼前には都会では見ることのできない星々が散らばっている。夏の大三角形が

「綺麗・・・」

 あまりの星空の美しさに感極まって、理子の目じりに涙が伝う。隣で寝ころぶ瀬能が理子の方をちらりと見たのも気にならず、ただただ星空の美しさにのまれていた。


「あ、流れた・・・」 

 瀬能の視線の先には大きく尾を引き流れゆく星。互いの肩が触れるくらい近い理子と瀬能はお互いに顔を見合わせると白い歯を見せる。毛布から出た理子の手と瀬能の手が触れる。

「高宮、手が冷たい。寒いんじゃないの?」

「大丈夫。フリース着てるし、毛布も2重に巻いているから」

「そう?じゃ、こうしたら少しはあったかいでしょ。」

 そういうと瀬能は理子の手を取って自分の被っている毛布の中に理子の手を入れて、瀬能の掌の中に理子の掌が納められた。

(どうしたらいいんだ・・・わたし)

 

 瀬能は親切心から手を温めてくれてるに違いないのだが、この状況をどう切り抜けていいかわからない理子は頭が真っ白になった。

 結局しばらく間を置いてから、理子が口にできたのはごくありふれたそのままの言葉。

「瀬能君の手、あったかいね。ありがとう」

 胸に訪れる甘い痺れと心地よさの板挟みになりながらも理子はその手を瀬能に預けたまま、幾筋も流れる流星を瀬能と共に明け方まで、時には歓声を上げ、時には目を見合わせながら観察し続けた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

色々と忙しくて更新が遅れがちですが、コツコツ書いていきますのでよろしくお願いいたします。


誤字・脱字に気が付かれたら、ご連絡いただけると嬉しいです。

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