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メザメ

自分のペースで書いて書き上げたら即投稿という感じにするので、更新は不定期です。

 占い師に遭遇し、そして彼女噛まれてから一週間が過ぎたある日のこと……一週間も経ちすっかり忘れてしまっていたのだが、嫌でも思い出さざるを得ない状況になってしまった。


「うわ……なにこれ……?」

 ある日、目が覚めたら犬歯がわずかに大きくなっていた。現状、まるで吸血鬼の牙を小さくしたかのような状態だった。

「吸血鬼……? もしかして……!」

 こんな状態になってからやっと思い出した。運命のあの日、ボクはあの占い師に首を噛まれたのだ。幸い、感覚的には血を吸われては居なかったはずのだけど油断していた……

「にしてもどうすれば……」

 流石にここまで目立ちそうな歯は誤魔化せそうにないし……特に、高坂さんは幼馴染だからかボクの変化に結構敏感だし、2秒で気付くハズだ。

 マスクを付ける? 風邪をひいてないのを見破られて、更に言い訳さえも論破されて外す羽目になってバレそう。

 じゃあ口を開かない? 多分、虫歯を疑われて強制的に口をこじ開けられてバレる。

 入れ歯? 周りに入れ歯だろうと入れ歯という嘘だろうと嫌です。

「どうしよう〜……」

「起きなさい流! 今何時だと思っているのよ!」

 ボクが寝坊していると勘違いしたのか、高坂さんがノック無しにボクの部屋に入ってきた。

 とっさに振り返ってしまい、直後にしまったと思い顔を……口元を隠してももう遅かった……

「流……? その歯……いったいどうしたのよ……?」

「……これは……」

 どうしよう……吸血鬼に噛まれましたなんて言ったら……腕がいいと評判の九十九精神科クリニックに連れて行かれるし、でも他に言い訳なんて……

「流、私は何か隠していたことで怒るつもりはないの。だから説明しなさい」

 いつも一緒だった幼馴染だからこそ、お互いの言っている事の真偽が分かる。だから、高坂さんの言っている事は本当、とりあえずボクを隠していた事で怒るつもりはないのだろう。

 じゃあ、仕方がないから言うしかない。包み隠さず、1から10、αからΩ、シャングリラからイギー・スペシャルズまで全部隠すことなく……

「実は……」


 説明している途中、母さんが部屋をノックしたんだけど、高坂さんの言葉によって部屋のドアを開けることなく戻っていった。その言葉なんだけど……

「流ったら熱だしちゃってたみたいで……もしインフルエンザだったらおばさんに移しちゃいけないので看病は私に任せて下さい。おばさんは学校に連絡してください。一応私も一緒に休むって伝えてください」

 という言葉だった。

 ちなみに、話はちょうど占い師に出会った辺りまで話した所だった。


 まあ、母さんが入ってきそうになったハプニングはあったものの、とりあえず全部話し終えたところで……高坂さんにビンタされた。

「怒らないって」

「バカっ! なんでそんな怪しい奴から逃げなかったの! しかもなんで……私を守りたかったなんて……」

「…………」

 じつは、力が欲しかった理由は高坂さんを守りたかったワケじゃない。

 かといって、別に高坂さんを守りたくないという気持ちは嘘じゃない。でも、力が欲しいと言った理由は別の理由……そして、それはあの占い師にも高坂さんにも言っていない。ボクの心に秘めた……ボクだけが知っている気持ち……

「とにかく、あとで出掛けるわよ!」

「出掛けるって……どこに?」

「決まってるじゃない! アンタをそんな体にした占い師の所によ!」

「…………」

「今頃アンタを嘲笑ってるあいつを、締め上げてでもアンタを元に戻させるから!」

「…………ごめんなさい」

 ボクのせいで高坂さんを休ませてしまうという罪悪感から、半分無意識に言葉が出た。

「な、なによ……アンタが謝る事なんて……」

「ボクのせいでいっつも高坂さんに迷惑かけて……今回も……」

「反省してるのならちゃっちゃと準備しなさい! あ、パジャマは着替えなくて良いわ。病院に行かなくちゃいけないかも知れないし。それと、歯の他に変な感じがするとかはない?」

「うーん……特には……ない、かな?」

 一応、少しお腹がへってるけど多分朝ご飯食べてないからだと思うし。

「じゃあ多分まだ大丈夫か……」

 そう呟いた高坂さんの目は、ただの幼馴染を心配するような目ではなかった……


 高坂さんが母さんに対して九十九クリニックという内科に行くという嘘をつき、ボクたちは例の占い師を探し出してボクを元に戻してもらうために、ボクはパジャマのまま出かけた。

 他人からしてみれば過保護過ぎると思うかも知れないが、多分普通の幼馴染もこんなものだ。


 高坂さんが倒れていたボクを発見した場所、そしてボクが占い師に首を噛まれた場所に……例の占い師はいた……一週間前とまるで変わらない、おとぎ話の悪い魔女のような、ローブを被った姿で……まるでボクたちが来るのを分かって待っていたような様子で立っていた。

「久しぶりニャル、ニーサン……その様子だと無事に災・・・・厄の種が・・・・目覚めた・・・・みたいニャルね」


 いったい何を言っているの……? この占い師は……?

「アンタ……いったい何を……?」

「ニャーがそこのニーサンを噛んで……スターヴァンパイアっていう、吸血鬼とは名ばかりの……バケモノ・・・・にしただけニャル」

 その言葉によって堪忍袋の緒が切れた高坂さんが、占い師に対して手を……いや、足を出した

 その攻撃が予想外だったのか、占い師は攻撃を腹部に喰らってよろめいた。

「ぐぐぅ……ニーサン……ニーサンの幼馴染ならちゃんと手綱は握ってないと……」

「黙りなさい、もしくは……流を元に戻しなさい」

「どっちも無理ニャル……ニャーが全てを嘲笑す者である限り黙るのは無理ニャル」

「じゃあ流を元に」

「それも無理ニャルよ……」

 少しの間沈黙して……そいつは破滅の言葉を告げた……


「ダッテ……スターヴァンパイアカガハジマッタニーサンヲモトニモドスナンテ、アザトースサマニスラデキナイカラネ」

 ……もう、何も考えたくない……

 朦朧としてきた意識の中で聞いた、泣きそうになりながら叫ぶ高坂さんの声を……ボクは忘れられないだろう……


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