0‐「かくも退屈な日々」
【これと言って目的が無い?】
【目的はあっても金が無い?】
【目的はないけど金は欲しい?】
【腕に覚えはある?】
【まだ修行中の身?】
【それともただのドシロウト?】
【誰かとおしゃべりしながら旅がしたい?】
【それとも一人静かにローン・ウルフ?】
【世の中を救いたい?】
【血と暴力に酔いしれたい?】
【何でもいいから旅がしてみたい?】
【まぁなんでも結構、大丈夫大丈夫お気になさらず問題なし!!】
【あなたの選んだ職業は自由な「渡り鳥」!!】
【生きるも死ぬも生かすも殺すも稼ぐも捨てるも何するも…全て貴方次第です!!】
【この広大な世界へと立ち向かえる意志さえあるのならば。】
‐『ヴィエネス・ワーキングガイド』より‐
「右を見ても左を見てもどうでもいい事ばっかりで嫌になってくるわ」
変わらぬ日々。
今日も単調に仕事をこなす。
「そりゃそうさ、世の中にゃ、どうでもいい事なんてのは山ほど、腐るほど、掃いて捨てるほどあるもんだ」
「でもまあ・・・その、なんだ」
「そういう「どうでもいい事」をつなぎ合わせていくと、「案外価値のある事」になったりもするもんなんだぜ」
そう言って、彼は胸元から取り出した度数が高いことだけが取り柄の安酒を煽って、息をついた。
「でもまぁ、退屈ではあるな」
彼も少し嫌そうに愚痴る。
「それが一番の問題なのよ」
ため息を一つ。
「退屈は人を殺すって言うけど、アレ本当なのね…」
変わらぬ日々に「精神の自分」が死にそうになる。
「これ」は必要だからやっていること。仕事はしっかりとやり遂げるべき。
理解している。でも、この退屈というのは理解を越えて襲ってくるから厄介だ。
「退屈が人を殺すんならいいさ」
酒を煽りながら彼は皮肉げに語る
「俺達ゃ退屈そうに人を殺してんだぜ」
彼が片手に持った鉄の塊。いわゆる拳銃。威力に重点を置いているせいか、かなり大きい。
面倒くさそうに引き金を引く。
鉄の塊の指し示す方に人の姿。胴体に着弾。上半身と下半身が分断されて飛んで行く。
「退屈ってのが人を勝手に殺してくれるってんならいいが、こっちは自分たちで動かなきゃならねえだけ、こっちのほうがよっぽどクソだと、俺は思うね」
ああ、確かに。
能動的かそうでないかの違いは大きい。
私達は、此処1月ばかり、能動的に退屈な殺しを行っていた。
「全く…」
嘆息する。気配。身を躱す。自分の身体があった場所を何かが通り抜けた。銃弾。
こっちが撃つなら当然向こうも撃ち返してくる。
当然の話ではある。
もちろん、こっちが撃たなくても向こうが撃ってくることだってある。
どっちにせよ大した差はない。向こうの弾は当たらず。
「全く、今日はお客さんの多いこと」
私が放った『つきまとう炎』は相手を消し炭にする。
それだけである。
「族の襲撃って訳にゃ見えねえんだがなあ」
「どーせ腐れ外道達が“フロスティ”で穴だらけになった脳味噌をフル回転させて、皆でかかれば怖くない的な、なに、なんていうか、そういうふうに考えただけでしょ」
「ああいうの、ウゴウのシュウって言うんだぜ」
「へぇ、アナタの“国”の諺?」
「おう。多分…いや、元はチューゴク語だったかな…?」
「どっちなのよ…っていうかチューゴクって何処よ…」
「そういう国があったんだよ。どこか遠くにな」
国だの何だのと、適当な嘘をついてるようにしか聞こえない。
というか諺の存在自体が嘘なのかもしれない。
本当かもしれない。本当だとしても驚かない。
まぁ別になんでも構いはしないけど。それはともかく。
「リョータ、私そろそろこの仕事から手を引きたいんだけど」
「俺だって手ぇ引きたいさ、アリア。ただなぁ…」
不躾な訪問者たちの脳漿を散らしながら、気だるそうに首を振る。
「依頼を引き受けちまった以上、ここから抜けるのは俺達が許してもコイツが許しちゃくれねえだろ?」
数人の気配。固まってきたか。リョータが動く。
手にしていたハンドガンを“収納”‐音もなく一瞬にして銃がその場から消える‐、
別の銃を“出現”させつつ‐今度は長銃身。オートマチックのショットガン‐
左手首に埋め込まれた機械へと眼を向け、軽く愚痴る。
『ディグロノフ』
身体接合型自立思考量子圧縮マルチデバイス(だかなんだかそういう面倒くさい呼び名があるらしい。私は詳しくないので知らない)。
一度受けた依頼は例外に抵触しない限り、完遂「させてくれる」。
他にも色々と機能のある、クソ勤勉でクソ融通のきかない、クソ便利な彼の相棒。
便利ではあるけれど色々と面倒くさいので欲しいとは思わない。
というかこんな代物、何処に行けば手に入るのかわからない。
「やーれやーれ、俺ってばどーしてこんな依頼を引き受けたんだろか」
ショットガンを片手で適当に乱射。
銃声が一つ聞こえるたびに複数の悲鳴が上がる。
「私が聞きたいわよ…切実にね」
超質量魔法鉛の散弾を掻い潜った「幸運な者たち」に杖を向け、『氷の針吹雪』を放つ。
ズタボロになる腐れ外道達。残念、幸運は長くは続かなかった。
「いやぁ…なんとなく?」
【超無法地帯を闊歩する悪党どもから店を守れ】
‐きっと彼の脳にはこんな感じの依頼名が見えているに違いない。ディグロノフは無駄にそういう言い回しを好むらしいから‐
「なんとなく、で引き受けるからこういうことになるのよ…期日まで残り何日だったかしら?」
「ん…ディグロノフ、依頼終了の期日まであと何日だ?…なるほど。一週間と2時間3分14秒くらいだってさ」
…まったく、嫌になる。
ここは生と死と血と暴力と歓喜と怨嗟と希望と絶望に満ち溢れた世界、「ヴィエネス」。
ここはその片隅。第618メガシェルター「メルツ」。
ここは更にその片隅。ありふれた超無法地帯。
私達は、とりあえずあと一週間と二時間何分何秒かは、スーパースラムでちょっとした武器屋の用心棒を請け負っている二人組。
私の隣で死んだ眼で銃弾をばら撒いてる男はリョータ・モトジマ。職業、「渡り鳥」。私の相棒。多分強い。
そして私。死んだ眼で杖を振るっている女、アリア・リル・メルニエフ。職業、「渡り鳥」。リョータの相棒。そこそこ強いと自分では思ってる。
私が彼を拾ったのは…いや、やめておこう。
多分これからアンタ達が読んでいくであろう話は、きっと私の目線で語るべきじゃない。
私の相棒がきっかけになって始まったこのクソみたいに退屈で少し楽しい気がする旅路は、私の相棒の目線で語られるべきだ。
たぶん、彼のほうが話は上手だろうし。
たぶん、彼のほうが私の知らない事を知ってるだろうし。
「異界からの渡り鳥」である、彼のほうが。
「っていうか「どうでもいい事は積み重なると価値のあることになる」としても、「どうでもいい死体が積み重なっても価値のあるモノになる」とは思えないのだけど」
「今は価値がなくても、1週間後には価値があるさ。カネになる。労力に見合った金かどうかと聞かれると、俺も答えられんがね」
酒飲みつつFall●ut:NVやってたらそういう感じのを書きたくなってなんとなく書き始めましたん。
文章って書くの難しいっすね!!(あふれ出す適当感)