東京の彼。第7話。入院。前編。
私の体が回復して、しばらくたったころ。
彼の体調がおかしくなった。
彼は、胃が痛いと言い、病院にかかった。
彼は、胃薬をもらい、それでも具合は治らなかった。
本格的におかしいと思い、ご飯は刺激が少ないものを作った。
しばらくして、歩く振動が痛いと言い出した。
私は、彼を青い自転車の荷台に乗せた。
彼を病院に運ぶためだ。
歩道の段差に気をつけながら運転した。
救急の入り口から入った。
廊下は薄暗く、不安な気持ちにさせた。
診察室に一緒に入って話を聞いた。
医者の話だと、こうだった。
「すい臓に、分泌物を送る臓器がおかしくなっている。」
「すい臓」という聞きなれない臓器の名前。
それがどこにあるのかさえ、わからなかった。
もちろん、どんな役割なのかもわからなかった。
彼は、即日、そのまんま入院した。
私は、会社に電話を入れて、彼の会社の上司にも連絡をした。
もちろん、彼の母親にも連絡をした。
入院の手続きの用紙には、「同居人」と記入した。
彼には、この土地で、頼れるのは私だけなのだ。
そのことに、少し優越感を覚えた。
もちろん、そんな状況ではないのはわかっていた。
次の日、私は、朝早く病院を訪れた。
彼のためのジャージや、コップなどを病室に運んだ。
彼は、弱弱しくベッドに横になっていた。
病室はとてもきれいで、ホテルのようだった。
6人部屋で、彼のベッドは廊下側の角だった。
クリーム色のカーテンで仕切られていて、窓がないので、暗かった。
食事制限をされ、点滴が3日間続いた。
3日目にはだいぶ良くなって、食事の時間のにおいがつらいと言っていた。
みんなが食べていると、自分も食べたくなると、食欲も見せた。
私は、仕事帰りに毎日寄った。
何かしらの手土産を持って。
ゲーム、パズル、雑誌。
とにかく暇だというので、時間をつぶせるものならなんでも持っていった。
彼のいない部屋に帰るのは、心底寂しかった。
一人きりで、エレベーターに乗るのも少し怖かった。
私の生活には、彼が絶対的に必要だった。
まだ、もう少し退院には時間がかかるそうだ。
私は、彼の不在に、心から彼の存在の大きさを知った。
彼は、必要なのだ。
男性として、パートナーとして、ひとつの体の部品として。