東京の彼。第6話。病気。
彼と、私の間には、誰も入ってこれなかった。
彼と私の作り出す、濃密な時間。
その中には、誰も入れなかった。
まるで、二人だけのために時間は流れているようだった。
どんな事件も、彼のお母さんも、その時間に触れることすらできなかった。
毎日、彼と、私のために太陽は昇った。
毎日、夜空は私たちを優しく包んだ。
どんなにけんかをしても、どんなに一人になりたくても、私たちは一緒にいた。
ある日、私は、仕事のストレスから、胃を壊した。
胃が痛くて痛くて、歩くこともやっとだった。
彼は、病院に付き添ってくれた。
一緒に診察室に入り、医者の話を聞いてくれた。
ストレス性胃炎だった。
仕事によるストレスが原因だった。
私は、1週間仕事を休んだ。
その間も、彼は、せっせと仕事に通った。
私は、入院こそしなかったが、胃カメラを飲んだ。
胃が痛くて普通のご飯が食べられない私のために、彼は、おかゆなんかも作ってくれた。
彼が仕事に言っている間、私は一人になった。
狭い部屋にぽつんと取り残された。
彼が仕事に行ってしまう瞬間まで、私はあとをぴったりくっついていた。
髪を直す彼の後ろ。
歯を磨く彼の後ろ。
服を着替える彼の後ろ。
何をするにも、ぴったりくっついていた。
そして、部屋から出て行ってしまう彼を、泣きそうな顔で見送った。
帰ってくるまでの何時間。
私は孤独だった。
彼の仕事が終わって電話が鳴ると、とたんに元気になったのを覚えている。
彼が休みになると、私たちは、存分に寝坊をした。
たくさん寝て、いい気分で目覚める。
隣には、彼がいる。
最高の特別休暇に、私は、どんどん元気を取り戻していった。
彼がいないとだめだった。
何にも乗り越えられなかった。
彼といる時間が、仕事より、何より、私のすべてだった。
あのころから、私の中心は、恋愛だったのだと思う。
今も、それは、変わっていない。
6年間も繰り返してきた毎日が、染み付いてしまっている。
それでも、私は、考え方を変えられない。
幸せだったあのころの記憶が、それを邪魔するのだ。
今は、毎日一緒だった彼は、もういない。
それだけなのだ。
変わったことは。
私の中身は変わっていない。
何一つあのころと変わっていない。
寂しいことだとわかっていながら、その事実に少しほっとする。