東京の彼。第3話。同棲。
付き合うのと、同棲するのが同時なんて、不順だと思う。
親に報告したのも事後報告だったし。
私達は一緒に住み始めた。
一緒に住んでみて、お互いの価値観の違いとか、寝相の悪さとか、お風呂の長さとか、そういうことが気になってくるものだ。
私達は、お互い、全然何も気にならなかった。
不思議なことだと思う。
食べ物の好き嫌いも嫌でなかったし、朝起きた時の機嫌の悪さも気にならなかった。
「似たもの同士」
だったのかもしれない。
お互い、赤の他人と暮らすことはもちろん初めての経験だったし、ずっと一人暮らしだった彼は、誰かと住むこと自体久しぶりのことだった。
二人は、いつも機嫌よく目覚め、機嫌よくご飯を食べた。
何をするのも一緒だった。
二人の家は、駅から遠く、最初のうちは歩いて通っていたが、面倒くさくなり自転車を買った。
荷台が付いている「ママチャリ」だった。
色は青で、タイヤが大きかった。
彼は、自転車に私を乗せ、駅まで通った。
もちろん彼が疲れたら、私もこいだ。
行動範囲が俄然広がった。
少し離れたところにあったスーパーマーケットにも行き、駅の反対側のプールにも行った。
何をするにも自転車での移動だった。
青い自転車は、大切に、5年間乗られることになる。
私達の住むマンションはとても狭く、柱が部屋の中に突き出していたため、1Kの一室は、6畳無かったと思う。
その部屋に二人の荷物がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
彼の荷物はそんなに多くなかったし、私の荷物も女の子にしては少ない方だったと思う。
それでも、引越しの時なんかは、段ボール箱が山積みになった。
キッチンは狭く、電気コンロが1つしか付いていなかった。
料理を本格的に作ろうとすると大変だった。
彼と住み始めてから最初の方は結構がんばって料理もした。
後半はコンビニ弁当ばっかりだったけど、たまに気が向くと料理をした。
二人では食べきれないほどの餃子をつくったり、彼が好きだといった煮物も作った。
私は料理が好きではなかったが、彼も手伝ってくれたので、二人でする料理は好きだった。
誰かがおいしいといってくれるのは、嬉しいことだと初めてわかった。
そんなふうに何にも無く、ただ、毎日が楽しかった。
彼といること、彼とくだらないことを話すこと、一緒にテレビを見ること、朝起きて隣に誰かがいること、何もかも楽しくて、嬉しかった。
都会に一人で出てきて、寂しかったのかもしれない。
彼は、ずっと一人暮らしで、やっぱり寂しかったのかもしれない。
二人でいれば、寂しくなかった。
一緒にいれば、何も怖いものなんて無かった。
幸せだった。毎日が。